フランス人形のような彼女2
肩で息をしていた女の子はもういなかった。全体ダンス練習が終わってからすぐに自主練をする紫苑は、まだ若いなと自分と比べたら9つ年下の女の子がうらやましくなった。ぼーっと彼女を見つめていれば視線を感じたのだろう、鏡越しに視線が合う。気まずく感じた俺は小さく口角を上げると、鏡に映る女の子も小さく口角を上げた。
「小林さん、今大丈夫ですか?」
「ああ。」
「ステップ見てもらってもいいですか?」
だらりと後ろに手を付いて預けていた体重を戻して、彼女をしっかりと見る。
そんな俺を見て、彼女は口でカウントを刻みながら、ステップを見せる。難しいステップもこなせるようになってきた。自主練も頑張っているのだろう、必死で付いてきていたダンスも今は全部の曲を卒なくこなせるようになった。
健二郎も、岩ちゃんもあまり彼女の事を迎合していない、俺だってすぐに受け入れたわけじゃないが、大人の事情でしょうがないこともあると、直人さんと話し合ったのだ。
俺たちですら辛いトレーニングも一度も弱音を吐いたことがないし、彼女は一番にトレーニングルームに来てる。休みの日もないようで、ほとんどを事務所で過ごしていると、マネージャーから聞かされ、厳しく接することもできないのだ。
「どうでした?」
小さく息をついて、彼女が振り返った。
「問題なかったよ。」
「良かったです。」
そういうとすぐに次のステップを練習し始める。
「この前のライブ、どうだった?」
声を掛けると、振り返って俺の隣へと座った。
この前のライブとは俺たちも半月ぶりとなるライブで、花火の初披露のステージで紫苑の初めてのステージだった。
「うーん。」
返答に困るのか、空中を見ながら唸っている。
「緊張はしてなかったでしょ?」
初ステージだというのに、完璧にこなした彼女には緊張のきの字もないように見えた。
「緊張しましたよ?」
そう言って、タオルで汗を拭く紫苑。
「失敗出来ないって思いました。」
ぼーっと鏡を見ながら答えてる少女へ唐突に不安を抱く。落ち着けば落ち着くほど周りの声は届いているのだ。
「紫苑の事叫んでる人いたの聞こえた?」
「本当ですか?全然気付きませんでした。」
不思議そうな顔で首をかしげる彼女を見て安心した。彼女の名前の後ろに続いて叫ばれていたものは全て罵声で、口に出すのも悲しい言葉ばかりだった。