くたびれた声は重く響く

ほっとしたような表情の小林さんを見て、小さく息を吐く。まだ耳の中に残っている、罵声。響くように私の心臓をえぐる。

分かっていたことだった。男の中一人放り込まれた得体も知れない女をファンが受け入れるはずがない。わかっていても、遠慮なく浴びせられた汚い言葉には耳を塞ぎたくなった。

「ご飯は?俺たちみんなで食べに行くけど。」

小林さん、片岡さんはとても優しい。エリーさんもだ。こうやって気を遣ってご飯に誘ってくれたりするが、後ろで見る山下さんや岩田さんの視線は厳しい。だからいつも申し訳ないと思いながらも断る。

「すみません、もう少し練習します。」
ほっとしたような表情の皆さんにチクリと胸が痛むが、笑顔で皆さんを送り出す。

誰もいなくなった部屋で大きく息をつく。
だらしないと分かってはいるが、床に寝転がれば、冷たいフローリングが背中を冷やす。

未だに聞きなれない電話の呼び出し音が静かな部屋に響く。

体を起こして、近くにおいてあったカバンの中から携帯を取り出す。ヒロさんから与えられた携帯。かけてくる人なんて本当に少数だ。
もう一度寝転がって、通話ボタンを押す。

「もしもし。」
「もしもし。」
「紫苑。」
「お母さん。」
電話越しでも、声がくたびれているのがはっきりと伝わる。
「大丈夫?」
「何が?お母さんこそ、体調は?」
「平気よ。最近はよく動けるの。」
「そっか。じゃあ私、レッスンあるから。」
「分かった。また連絡する。」

唯一の肉親である母親は4年ほど前に病で倒れた。シングルマザーの母親は以前は気丈で強い人間だった。病気で仕事を辞めるしかなくなった頃から、見るからに弱っていった。

自分の中で憧れの存在だった、母親の弱った姿、くたびれた声を聴くのがつらい。ここにきてやっとお金のめどがついて、治療を開始できたのは幸いだったが、あまり良くなっていないのだろうか。

ぐっと下唇を噛みしめる。

「女の子だからって泣いちゃだめよ。」
母親から何度も言い聞かされた。人を傷つけちゃダメ、嫌なことをされても笑って。

そういうあの人は、夜の仕事で私を養っていた。

シングルマザーでその職に就く人は少なくないだろう。ただ私はその仕事の過程でできた、父親の分からない子供だった。幼少期、そのことについて何度もいじめられたが、母の教え通り私は泣かずにやり返すこともなく、ただ笑うような子に成長したのだ。

そのおかげだろう、少しの罵声なら気にもならないし、平気な演技も上手だった。

「よし!!」

体を起こして鏡に向けて笑顔を作る。

昔のことを考え居ても意味はない。一年。この仕事をやりきらなければ。

それがヒロさんとの約束だから。