安室は焦る胸中を隠して、困った顔で見つめ返す。
その気になればいつでも、あしらうことも、取り繕うことも、切り捨てることすら躊躇しない。そんなふうに、自分を切り替えることは容易だった。いつもであれば。
――どうしてだろう。目の前の彼女を冷徹に突き放せずにいる自分に、安室は困惑する。
駅のホームに、人混みの交差点。
必要悪だとはいえ、彼女を騙すことになった罪悪感から?
単純に、弱っている彼女を目の前にしているから?
それとも、まさか、
俺は、彼女の味方でいたいとでも思っているのだろうか。
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内心の葛藤を悟られまいとする気持ちもあるが、それ以上に潤んだ瞳と赤い頬の彼女が心配で。
「如月さん、とりあえず部屋のなかに」
話はそのあとで、と彼女の肩に右手で触れたとき、力強く掴まれた手首に驚いた。
一体、彼女のどこにそんな力が残っていたのだろうか、安室がとっさに視線を合わせると。
「安室さんの、貴方の、仲間にしてもらえませんか...?」
か細い、けれど迷いのない声に、真っ直ぐな瞳。
熱にうなされて口走ったのかとも思ったが、見れば見る程そうとは思えない姿に安室はますます困惑してしまい、口を開こうとするも何を言えば良いのか戸惑っていると。
「私には、もう、何もないんです。
赤井さんをまだ探しているのなら、私を利用して貰っても構いません。だから...」
これが正しい判断じゃないのはわかっていた。
赤井に対する優越感が微塵もなかったとは言い切れないし、打算的な考えがよぎらなかったとは言えば嘘になる。
けれど何処かで、他でもない自分を頼ってくれることを嬉しいと思ってしまっている自分がいて。
彼女が何かに気づいていようと、巻き込むべきではないとわかっていたはずなのに。
この手を差し伸べたら、もう後戻りはできないとわかっていたはずなのに。
なのに。
「...ありすが望むなら」
“俺が”彼女を救いたいと思ってしまったんだ。
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