※美優は以前ハノイの事件に巻き込まれて時折フラッシュバックをおこしています。
「雨か…」
パラパラと降り始めた雨に私は呟く。
丁度病院での検診が終わり、外に出ようとしていたところだった。
天気予報は確認済みで、傘は持って来ていたためこの中を走って帰るなんてことにはならなそうだ。
「(とりあえず草薙さんの所に行って検査の報告かな…遊作もいるだろうし)」
そんな事を考えていると電話がかかって来た。
「もしもし、草薙さん?」
『あぁ。まさか、検査中だったか?』
「いや、もう終わったからそっちに行こうと思っていたところです。どうかしかましたか?」
『実はな、遊作が来なくてな…美優と一緒にいるかと思っていたんだが』
「え…遊作はこっちにはいないですけど…」
『!おかしいな…今日もこっちに来るはずだったんだか』
遊作が草薙さんに連絡もせずに来ないなど基本的にはなかった。
もしかしたら何か事件にでも巻き込まれたのかもしれないと思った。
「探しましょうか?」
『え、でも検査終わったばかりなんだろ?それに…』
「大丈夫です!お医者さんからも「とりあえずは問題ないよ」って言われましたから」
『そうか…すまない』
「気にしないでください。またしばらくしたら連絡します」
『わかった…もしかすると、遊作はお前の事で悩んでどこかに行ってるかもしれない』
「え?」
『お前の身体の事気にしてるんだよ…だからってこの雨の中行かなくてもな』
草薙さんは少し困ったような声で笑う
「…本当ですよ。よし、じゃあ探してきます!」
電話を切ると、傘をさして遊作を探しに行った。
……
通学路、たまに寄るカードショップ、あとは遊作が寄りそうな所を探すが見つからない。
「(まったく…どこにいるんだろ)」
一度草薙さんに連絡を取ろうかと立ち止った時、すぐ近くに大きな公園があるのが見えた。
そこはまだ立ち寄っていない場所であった。
「…とりあえず見てみよう…」
私は公園に入り、通路をしばらく歩いた。
すると、遊作が上を向いて立っていた。
遊作の制服は雨に濡れて、色が濃く染まっている。
「…遊作」
こちらを向いた遊作の表情は少し驚いていたがすぐに無表情になる。
「ずぶ濡れだし…草薙さん心配してたよ、「遊作が来ない」って」
「…病院に行ってたんじゃないのか」
「もう終わったよ…考え事してるんだろうけど、流石にこのままはよくないから戻ろう?」
遊作の腕を引くが、動く気がないのかびくともしない。
Aiは家に置いて来ているのか、ディスクは着いていなかった。
「…遊さ」
「今は、動きたくない」
「でも」
「…」
遊作は下を向いた。
多分、これ以上何を言っても動かないだろうと思った。
私は、遊作が傘に入るように近づいた。
「!…俺は良いから、お前は草薙さんの所に戻れ」
「私は草薙さんに遊作を探して来いって言われてるから」
「…身体に悪いだろ」
「お医者さんからは問題ないって言われたよ」
「…」
「私の身体の事、気にしてるの?」
その言葉に、遊作の表情がすこし変わった。
どうやら、草薙さんの言った通りのようだった。
「俺が巻き込んだんだ…何も思わないわけないだろ」
「…そっか」
私の身体は、リンクヴレインズでのハノイとの戦いでフラッシュバックが起こるようになってしまった。
ハノイの騎士が遊作のアバターに対してフラッシュバックの起こるウィルスを送ろうとしていたのをすぐ近くにいた私がプログラムを書き換え、代わりに引き受けたのだ。
幸い、命に関わる程のものではなかったが、左の腕と足に突然激痛が走るようになった。
遊作は、気が付くのが遅れて私が肩代わりさせてしまったことをずっと気にしていたのだ。
「俺が早く気が付いていれば…美優は」
「…気にしないでって言っても気にしちゃうんだよね、遊作は」
「…」
「そっか…でもね」
私は左手で遊作の右手を握ると、恋人つなぎをするように私の指を遊作の指の間に入れ、胸の高さまで持っていく。
「私は、遊作が痛い思いをしなくてよかったって思ってる」
「!」
「たしかに、痛くて動けない時もある。病院にもいかなきゃいけない。けれど、それは私が望んだから。遊作を助けたいって思ったから」
「でも、元は俺のせいで…」
「遊作のせいなんかじゃない。巻き込まれたなんて思ってないよ」
「…痛みは残ってるだろ」
「うん…でもこうして、手を繋ぐことはできる。できることは今までと変わらないよ」
遊作は顔を上げ、私を見た。
その表情は、無表情だけれどどこか不安げなように見えた。
私は、彼の目を見て言葉を続けた。
「遊作が納得できないのは仕方ないって思う。でも、その責任を一人で抱え込まなくていいってことは分かって欲しいんだ」
「…美優」
「…一人じゃないよ」
「…」
遊作は繋がれている手を握り返した。
「…冷たいね、遊作の手」
「お前の手は暖かいな」
「雨に濡れてないからね」
「そうだな」
そう言った遊作の表情は、先ほどより柔らかくなっていた。
遊作が目的を果たすまで、何度も悩んで、こうして雨に打たれるのかもしれない。
その度に、私は彼を探して傘を差しに行く。
それが、私に出来る事だと思うから。
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