放課後、日直の仕事を終わらせた俺は気晴らしに屋上に足を運んだ。
運んだのは良いのだが、

「...は?」

そこには、フェンスに背を預けて目を閉じている遊作の姿があった。

「...おい、遊作?」

肩を揺らしても、頬を軽く叩いても返事がない。
ただ、息はしているので寝ているだけのようにも見える。
今日一日一緒にいたが、体調が悪いという様子は見せていなかった。

「何がどうしたんだよ....ん?」

ふと、遊作の腕にデュエルディスクが付いているのが見えた。
それと同時に、スマホに着信が鳴った。
差出人は草薙さんだった。
...なんとなく、この状況がどうなっているのかわかった気がした。

「もしもし?」
「美優、今遊作の近くにいるか?」
「いるけど、寝てます」
「やっぱりか...」
「まさかとは思うけど、LINKVRAINSに行ったとかないっすよね?」
「...その通りだ」

草薙さんの言葉に俺はため息をついた。
どうやら、今どこにいるのかを伝えないままログインしてしまったようだった。
LINKVRAINSにログインしている間、生身の身体は無防備になる。
いくら素性を知られていないとは言え、無用心にもほどがある。

「とりあえず、俺が遊作持ってそっちに行くんで安心してください」
「え、持っていく?」
「これ以上部活もしてないで屋上にいたとかバレたら逆に先生に怒られちゃいますから」
「あぁ、そうだな。美優頼んだ」
「了解です」

電話を切ると、早速遊作を運ぶ事にした。
遊作のバッグは俺のリュックに入りそうだったので少し無理やりだが運べそうだ。
問題は、遊作をどう運ぶかだった。背中に背負うのもありだが、この寝ている状況では背負うのも大変だろう。

「んー、まぁ人も少ないし良いか」

俺は、遊作の両膝の下と背中に手をやって持ち上げた。
横抱き。通称、お姫様抱っこというやつだ。
遊作にとっても俺にとっても相手は女の子だと良かったであろう。
だが、今この状況は仕方がない。
すまん、遊作。
こんなところでログインしたお前が悪いんだ。

*********
幸い、生徒や教員に会うこともなく出ることができたのはラッキーだと思った。
学校を出た後は、草薙さんのお店の車までだ。
一応、人通りが少ない行き方を知っているのでそこを通れば比較的目立たずに済むだろう。

「(とりあえずは安心か)...全く、草薙さんに心配かけて」

こうして寝ているのを見ると、いつもの真面目で固そうなイメージなど全くない柔らかな表情をしているとき 気がつく。
道を歩きながら遊作に話しかけるが、目を閉じたまま何も反応しない。
まぁ、意識がないので仕方がないのだが。

「...ん...?」

と思っていた。
どうやらログアウトしたようで、遊作は目を覚ました。

「美優...」
「おはよう、遊作」
「....!下ろせ!」

遊作は自分の状況を理解したようで、暴れはじめた。

「お、おい落ち着けって!俺はお前を運んだだけだって!」
「知るかっ!」
「おいおい!下ろすから!このまま暴れてると俺もお前も怪我するからな!」
「!....」

下ろすに反応したのか、怪我をするに反応したのか、なんとか暴れるのは収まった。
遊作を下ろし、リュックに入れていた鞄を渡す。

「...運んでくれたんだよな」
「あぁ。あんなところでずっと寝てたらまず無用心すぎるだろ」
「別に、誰も気にしないだろ」
「何言ってんだ。お前自分が顔いいの知らないからだろ」
「別に良くない」

あぁ言えばこう言う。
さっきまで柔らかい顔で寝てたあいつはどこに行ったのやら。

「...とりあえず、草薙さんかなり心配してたぞ。お前がどこにいるかも伝えないままログインしたから」
「...」
「せめて、草薙さんには謝っとけよ」
「あぁ」

とりあえず反省の色はあるようだからいい事にしておこう。
そう思い、道を歩こうとした時

「美優」

遊作に腕を引かれた。

「...悪かった」
「...え?」
「草薙さんに言われて運んでくれたんだろ?」
「まぁ、ログインしてるって知ったのは草薙さんから連絡あったからだけど、運ぶって言ったのは俺だから」
「え、」
「いや、さっきも言っただろ。無用心すぎるって。草薙さんも心配してるけど、俺も心配してるんだぞ...」

俺は掴まれていない手で遊作の頭をぽんぽんと叩く。

「まぁ、運び方はさすがに悪かったと思ってる。でも、なるべく心配かけるなよ」
「...あぁ」
「よし、草薙さんのとこ行こうぜ!」

遊作を引っ張るように俺は歩きはじめた。

「...ありがとう」

その時の遊作が言ったことや、少し赤くなった表情に気がつかないまま。



*前次#





top