自分の好きな人が辛い思いをすると、自分も辛くなるという話を聞いた事がある。
それは、相手を思うが故の感情の爆発というのか、思いが溢れる故でのというのか。
でもまさか、本人の前で泣くことになるなんて。

「っ…うぅ…」
「お、おい…美優っ」

泣かれている遊作は、かなり驚いていた。
それもそうだろう。泣かせる事をしたわけでもないのに泣かれているのだから。
5年より前の過去がない事。
ハノイの騎士への復讐。
どれだけ辛くても、自分を傷つける現実が待っていたとしても。
それが、自分で選んだ道であると。
遊作のその言葉で私は泣き出してしまった。

「ごめん…ごめん、遊作は、何も悪くないから…」
「…」

何をしているんだろうと思う。
好きな人を思っていたからだからといって、目の前で泣いてしまう人間がいるものか。
遊作からしてみれば、自分の話をしたら突然泣かれたのである。
気分の良いものではないだろう。

「…泣くな」

その言葉とともに、体が前に引っ張られる。
気がつけば、私は遊作の胸の中にいた。

「!、遊作…」
「俺が悪くないと言われても、泣かれるのは良い気がしない」
「…ごめん」
「俺が、何か気に障ることを言っていたなら謝る」

遊作は悪くなんてない。そう思って私は首を横に振る。
泣いたのは、私自身のせいなんだから。

「ちがうんだ…遊作、本当に強いんだなって思って…」
「…強い?」
「うん…辛くても、前に進むことをやめないんだなって」

そして、関係のない人は巻き込まないようにという優しい心ももっている。
優しくて、強い人。
だからこそ、辛く感じて泣いてしまったんだろうなと思った。

「…そんなこと考えたらなんか、泣いちゃって…ごめん」
「…そうか」

遊作はゆっくりと私の頭を撫でた。

「俺は、俺が強いなんて思ってない。やるべき事をやっているだけだからな」
「でも、私にとっては強く見えるんだよ」
「……もう、泣くな」
「ごめん…」
「…謝らなくていい」

遊作は、私の背中に回している腕の力を少し強める。

「俺が、お前を悲しませているのは、何か嫌なんだ」

あぁ、やっぱり遊作は優しくて強い人だなと思った。
気がつけば、また涙が流れ出していた。
私は彼のことが好きで、誰の事でもない彼の事だから泣くことができるんだなって改めて感じた。


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