※遊作が過去の事件で無意識にトラウマを持っていたら…というお話です。


白い部屋、開かない扉。
目に付けられた黒い機械。

"勝たなければ生きて出ることは出来ない"
"生きたい"
"死にたくない"

見えない恐怖、先のない未来を壊したくて
ひたすら、ただひたすらに…
俺は…

「っ!」

目を覚ますと、見慣れた教室が目に入った。

「(…夢か)」

額を触れば、うっすらと汗をかいていた。
俺の何もかもを奪った、過去の出来事。
その時の記憶もかなり曖昧のものだが、こうして夢に出てくるという事は記憶は薄くても俺自身に強く残っているんだろう。

「あっ、起きた起きた」

すぐ近くで声が聞こえた。
振り向くと、そこには美優の姿があった。

「美優、なんで此処に」
「なんでって、今日は草薙さんの所に一緒に行くって約束してたから来たんだよ。まぁ、遊作寝てて起きなかったけど」

寝起きの頭で記憶を思い返す。
たしかに、朝にそんな話をした気がした。

「あぁ...してたな」
「その反応は、忘れてたでしょ?」
「...」
「はぁ、まぁ約束は達成だしいっか!」

嬉しそうな様子を見る限り、とりあえず大丈夫そうだなと思った。
窓からは夕日が差し込んでいて、放課後になっていることがわかった。

「そう言えばさ、寝てた時少しうなされてたみたいだったけど大丈夫?」
「え、」

まさか顔にまで出てるとは思っていなかった。
だが、額に汗をかいていたのだから表情に出ていてもある意味おかしくはなかったのかもしれない。

「もしかして怖い夢でも見た?寝すぎて単位落としたとか!」
「そんなの見てない」
「そっか...」

何で少しがったりした表情を浮かべるのか。
と言うより、今日の美優はいつもより気分がした。
いつもはもう少し落ち着いているはずだが、なにか良いことでもあったのだろうか。

「今日はいつもより機嫌がいいが、何かあったのか?」
「おっ、よくぞ聞いてくれました!本当は草薙さんの所に行ってからでも良かったけど、遊作には先に見せるね」

そう言うと、美優は鞄から黒いゴーグルを取り出した。
それは、俺が夢で付けていた物にそっくりだった。

「それ…」
「うん!持ち運びできる小型タイプのVRゴーグル。ずっと人気でなかなか買えなかったんだよね」
「、そうだったのか」
「付けている分にはそんなに重くはないんだけど、友達と遊んだりとかするときに気軽に持ち運べる大きさじゃなかったんだよね」

ゴーグルを手に持ち、嬉しそうに話す美優。
俺があの時付けていた物とは全く違う筈なのに、頭の中で「危険だ」と感じてしまう。

「遊作どうかした?」

俺の様子がいつもと違う気がしたのか、美優が話しかける。

「っ、いや、何でもない…」
「そう?」
「あぁ…」

夢で見た光景が思い出される。
あれを掛けてはいけない、掛けさせてはいけないと思ってしまう。

「まだ買たばかりだから、簡単なアプリゲームしか入れてないけど、デュエルディスクと連動してデュエルもできるんだよ」

そう言って美優はゴーグルを起動し、自身に掛けようとした。
ダメだ、やめろ。
それを掛けたらお前は…!

「っ…!」

大きな音を立ててゴーグルが床に落ちた。
いや、俺が美優の手からゴーグルを落とさせたのだ。

「えっ…遊さ」
「っやめてくれ…!」

なりふり構わず、俺は美優を抱きしめた。

「頼む、頼むから…」
「えっ…?」

あのゴーグルは俺が過去に付けられた物とは全くの別物であり、美優に何が起こるものでもないと分かっていた。
誰かがいなくなるわけではないと知っているはずだった。
なのに、昔の夢を見たせいなのか"危険である"と思ってしまった。
美優が嬉しそうにしていた物だったのに。

「…遊作?」
「っ、悪い…俺は…!」 

気がつけば、身体も声も震えていた。
あれを美優に掛けさせてしまったらもう会えなくなると、そう考えてしまった。

「遊作!」

声とともに、美優の顔が目の前に現れた。
俺の顔は、美優の両手によって抑えられていた。

「…美優」
「とりあえず落ち着いて…寝ててうなされてたみたいだし、体調悪かった?」
「え…」

あぁ、なんでお前はそんな優しい事を言うんだ。
俺はお前に怒られても仕方ないことをしたのに。

「遊作あんまりそういった事言わないから、無理してたのかなって思って…」
「…お前は何も悪くない。全部、俺が悪い」
「もしかして、ゴーグルの事?」

その言葉に俺は俯いた。
俺の様子に、美優は何となく察したようだった。

「どんな夢見たかは正直わからないけど、大丈夫だよ」

そう言って、美優は俺を抱きしめた。

「…怒らないのか?」
「まぁ、買ったばかりなのに落とされたからショックだけど、衝撃に耐えられるようにできてるからぜんぜん大丈夫だよ」
「…」
「それより、遊作は大丈夫?私はそっちのほうが心配」

美優は俺が過去に何があったのかも、俺が復讐する理由も何も知らない。
だが、何も聞かずに俺のそばに居てくれた。
ただのお人好しなのか、もの好きなのか。
分からないが、今は美優の優しさに少し寄りかかりたかった。

「…少し、嫌な夢を見た。本当に悪かった。落としたりして」

俺は、美優の背中に手をまわす。
少しでも、彼女の存在を感じられるように。

「っ遊作…?」
「悪い…今だけ、こうさせてくれ…」
「…わかった。大丈夫だよ。私は、ここにいるよ」

身体に伝わる温かさにが心地よく、俺は目を閉じた。
消えないようにと、願いながら。



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