今日の学校を終えた水守は帰宅の途についていた。

「(葵は今日はデュエル部の活動だし、一人で帰るのも久しぶりだな~)」

昇降口を出て、校門に向かって歩く。
すれ違う生徒の殆どは部活での格好をしていたり、必要な道具を持っており、綾瀬のように部活に所属しないで帰宅するものは少ないように見えた。

「(皆部活なんだね)」
(そりゃあ大体の人は入ってるでしょ。綾瀬みたいなのが少ないんだって!)
「(ん~、そんなものなのかな…)」
(まぁ、無理して入るものじゃないとは思うけど)
「(んじゃあいいかな)」
(結論出すの早っ)

綾瀬は校門を出ると、家ではなく街に向かった。
まっすぐ家に帰ろうかと思っていたが、以前気になっていた本が今日発売であることを思い出したからだった。
暫くしてよく利用している本屋に着くと、目当ての本を探した。

「(どこかなぁ)…あった」

見つけたのはIT系の技術本である。
技術本と言っても初心者でも分かるように書かれたものであるため、そこまで難しいものではない。
インターネットが手放せない時代となっている今、技術に関しての知識はネットを探せば出てくるが、より深く正確な知識を得るとなると専門書を読むのが一番効率がいいのである。
綾瀬は他の本も見て回った。
直ぐにでも購入したい気持ちは山々だったが、こういった時でないと本屋に行く機会がないからである。
雑誌コーナーに足を運び、見ていると

「あら、綾瀬ちゃん?」

後ろから声が聞こえた。
綾瀬振がり返ると、そこにはライダースーツを着た女性が立っていた。

「あ、エマさんお久しぶりです」

女性に綾瀬は笑いかける。
彼女の名前は別所エマ。IT系のジャーナリストであり、綾瀬の知り合いである。
当時エマは出版社からのオファーでそのイベントの記事を書く事になっていた。
本来、社会人や大学院生が参加するはずのイベントに当時中学生だった綾瀬がいるのはかなり珍しいことで、エマが記事の題材にするきっかけとして話しかけたのがきっかけだった。
そこから色々と話しが続き、こうしてお互いに話す仲となった。

「お久しぶり。元気にしてた?」
「はい。エマさんも元気そうで何よりです」
「仕事が最近忙しくて、元気じゃないとやってられないわよ。もう高校生よね~時間がたつのも早い早い」
「そうですか?私はそこまででもないと思うんですけど…」
「大人になると仕事が忙しくて色々と短く感じるの。久しぶりだし、少し話さない?」
「はい。その前にこの本買ってくるので少し待っててください」
「オッケー」

綾瀬はレジで本の会計を済ませると、エマとともに店を出ていった。

「そう言えば、エマさんが本屋にいるのって珍しいですよね。たしか、本は電子派って言ってましたけど…」
「いつも乗ってるバイクをメンテナンスに出してたの。ただそこで待っててもあれだったから、近くのお店を回ってたってわけ」
「そうだったんですね。で、丁度私に会ったと」
「そうそう。一人だとつまらなかったから助かったわ~」

ちょっとあそこでお茶にしない?と、エマがカフェを指差した。
綾瀬はこれから特に用事があるわけでもないので了承し、カフェへと入っていった。
まだ夕方という時間には少し早いので、店内は空いていた。
席に着き、エマはアイスコーヒー、綾瀬はミルクティーを頼み、暫くするとそれらが運ばれてきた。

「久しぶりにお話したかったから、奢るわよ」
「すみません…ありがとうございます」
「良いの良いの!どう、高校生活は?」
「ん~…基本はあまり中学と変わらないかなって思います。といってもまだ1ヶ月なのでなんともですが」
「そう。まぁ、高校生だからってあまり変わらないか…」
「でも、いろんな学校から人が来てるので、そういった面は新鮮ですよ。クラスの人は皆いい人達ですし」
「そっか、それは良かった」
「今日はクラスの子からPlaymakerの話を沢山聞きました。偶然買ったティーン雑誌にも載ってたので、すごいなぁっておもってます」
「Playmakerねぇ…」

エマの表情が少し真面目なものに変わった。

「エマさん?」
「Playmakerは私の方でも結構話題なの。スキルもデッキも不思議なものだし、一体何者なんだーって」
「そうなんですか…私も彼の動画とか見たりはしましたけど、あんなデータの竜巻なんて見たことなかったです」
「おっ、綾瀬ちゃんもPlaymakerに興味があるの?」
「そういうわけではなくて、元々LINKVRAINSでのハノイ襲撃事件がSOLテクノロジーが大規模スキャンをしていたのが原因らしいという事を調べていたんですけど、いつの間にかPlaymakerの話が入ってくるようになったというか…」
「色々調べたのね」
「沢山かどうかはわからないですけど、出来る限りは。大規模スキャンはどうやら逃げ出したプログラムを見つけるためとかなんとか…みたいな記事は見つけましたけど本当かどうかはちょっとわからないです」

そう言って苦笑いを浮かべる綾瀬。
Playmakerへの興味はそこまであるというわけではない。
だが、元々興味のあった話の先にPlaymakerが繋がっていた。綾瀬にとってはそれだけの話だった。

「で、気がついたら世間がPlaymakerで大盛り上がりになっていっぱい話が入ってきたと」
「そんな感じです…ってこの事エマさんに話ちゃってるんですけど、大丈夫ですか?色んな意味で…」
「色んな意味?」
「いや、エマさんってそういった関係の話には精通してるから、さっき話してた内容によっては言っちゃいけないのがあったりして…と思って」
「あ~大丈夫大丈夫。問題ないというか、既に知っているしこっちには既に広まってる話だから」
「そうですか…良かった」

綾瀬は一安心してミルクティーを飲む。
エマはその様子を見て、笑みをこぼした。

「ちょっと心配だった?」
「そりゃあ心配になりますよ…内容によっては知ってはいけないものだったみたいなのだったらって考えると…」
「まぁそうよね。しかも、話しているのがこの私だものね」
「絞っても何も出ませんよ~」
「大丈夫。高校生の女の子から情報を絞ろうなんて考えてないわよ私」
(なんだろう。嘘ではないんだろうけど怪しく聞こえる…)
「(まぁ、エマさん元からこんな感じな人だから…)」

アイスコーヒーを飲むエマに斗亜は呟く。
だが、斗亜の声は綾瀬にしか聞こえない為、エマには届かない。
いくら知り合いになり色々と話す関係になっても、相手がジャーナリストということもあり斗亜自身、エマを信頼していないというわけではないが少し警戒をしていた。

「あはは。そうだとすごく助かります…」
「ふふ。でも、綾瀬ちゃんかなりプログラミングの腕はあるからな~」
「えっ!」
「ウソウソ」
「も~エマさん」
「ごめんごめん。綾瀬ちゃん反応が可愛いからついからかいたくなるの」

この調子だとまた暫くからかわれるかもしない。
綾瀬がそんな事を思っていると、エマのスマホが鳴った。

「あら、バイクのメンテナンス終わったみたい」
「そうですか。お互いに飲み終わりましたし、行きますか?」
「そうね」

そう言うと、2人は荷物を持って店の外に出た。

「ありがとうね。付き合ってらって」
「いえ、私も久しぶりにお話できて良かったです!」
「そう。なら良かった…あ、それじゃあ良かったついでに少し良いこと教えてあげようかしら」
「良いこと、ですか?」

首をかしげる綾瀬の左耳にエマは顔を近づける。

「あの時、綾瀬ちゃんが話していた"プログラムが逃げた"っていう話。実は本当みたいよ」
「えっ…!」
「まだプログラムについての詳しい話は調査途中だけど、それをSOLテクノロジーが追っているみたいなの」
「…」
「…まっ教えるのはここまでね。色々調べていたみたいだからサービスよ!」

そう言って、綾瀬から離れエマは笑みを浮かべた。

「サービス…」
「お金も何も取らないから心配しないで。じゃあ、私は行くわね。学生生活楽しむのよ~」
「…ありがとうございます!エマさんも体調に気をつけて!」

#nama2#は歩いて行くエマにお辞儀をした。

(まさか、情報をくれるなんて…)
「ホント。びっくりだよ…でも、プログラムが逃げたんだ…」

貰った情報は大規模スキャンの理由の答えとなるものだったが、同時に#また新しい疑問が生まれる事になった。

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