「…」
(綾瀬)
「…」
(綾瀬ってば!)
「っえ!?」
(やっと気づいた~もう、色々気になるのは分かるけどそれは家に帰ってからにしてよ。そのまま歩くのは危ないって)
「(ん~分かってはいるんだけど、考え始めたら止まらなくて…)」
エマと別れた後、綾瀬は先程教えてもらった情報の事について考え事をしていた。
最初は歩きながらであるから少しだけ考えようと思っていたが、気がつけば深く考えてしまっていたようだった。
(もう…そんなに気になるなら一旦公園とかで考えてみたら?ほら、近くに広場あるし)
斗亜の言ったとおり、この近くには大きな公園がある。
本来であれば、家に帰ったほうが良いのだろうが綾瀬の様子を見る限り気が済むまで考えさせたほうが良いと斗亜は考えた
「(でも、家に帰ったほうが…)」
(また考え込まれて誰かにぶつかったりするほうが嫌なの。それに、まだ帰るには時間があるから大丈夫)
「(…そうだね。ありがとう斗亜)」
(いえいえ~)
綾瀬は公園に入って、広場に向かった。
広場にはベンチなどの座る場所があるので、考えるには丁度良い。
「あれ?あんな所にホットドッグ屋さんってあったっけ?」
広場に来て最初に目に入ったのは、キッチンカーだった。
どうやらホットドッグ屋らしく「Cafe Nagi」と店名が書かれていた。
(キッチンカーだし、最近来たんじゃないかな?)
「(ふぅん…ちょっとお腹空いてきた)」
(お、買い食いですか。さっきまでミルクティー飲んでましたよね?)
「(いや…だってちょっと行きたくならない?)」
(……それは、わからなくもない)
「(よし、なら買いに行こう!)」
いくら人格が2つに別れていると言っても、2人の大体の興味や好きな食べ物などはそれほど変わらない。
綾瀬の気になることは斗亜もきになることなのである。
「すみません」
キッチンカーに向かい、声をかけると店員である青年がこちらを向いた。
「いらっしゃい」
「ん-ホットドッグ一つとオレンジジュース1つください」
「かしこまりました。今焼いているからちょっと待っててね」
注文を聞くと、青年はソーセージを焼き始めた。
待っている間少し時間があるので綾瀬は少し青年にはなしかけてみることにした。
「お兄さん。ここでホットドッグ屋さんしてるんですか?」
「そうだよ。最近はじめたばかりなんだけどね」
「そうなんですか。私ここらへんに住んでるんですけど、ここにお店があったなんて知らなくて」
「まぁ本当に最近だからね…お嬢さん学生かい?」
「はい。今年から高校生になりました」
「そうなんだ。どうだい、高校生活は?」
「色んな人が集まっているのでちょっとまだ慣れてないですけど、楽しいです」
「そうかい。人生で一度きりの高校生活だから思い切り楽しむと良いよ」
「はい。そうします」
さすがキッチンカーで営業している事もあってか、青年は気さくで優しそうな人物だった。
二人が会話をしているうちにソーセージも焼きあがったようで、青年はそれを事前に準備しておいたパンに挟んだ。
「はい。ホットドッグとオレンジジュースね」
「ありがとうございます!」
綾瀬は注文したものを受け取ると、近くにあったベンチに腰掛けた。
オレンジジュースの入ったカップは足元に置き、一旦周りを眺めた。
時間は夕方頃もあってか少し人が多く、犬と散歩している人や追いかけっこをしている小学生、ジョギングをしている人もいた。
そんな人々を眺めながら綾瀬はホットドッグを一口食べた。
出来立てであるが故熱かったが、ケチャップやマスタードが程良い濃さでいい味を出していた。
「(これ結構美味しい…!)」
(お、飼い食いして正解だった?)
「(うん。大きも味も丁度いいから私的にはあたりかな?)」
(お~それは良かったじゃん!)
先程の考え事は何処へやら。綾瀬の意識はホットドッグへの美味しさに向いていた。
暫く食べ進めていると、目の前の建物に設置されている巨大モニターが目に入った。
映っているのはLINKVRAINS関係の番組で、現在閉鎖されているエリアのメンテナンスについての告知をしていた。
「(LINKVRAINS…思えば復旧かなり早かったよね)」
(そりゃあかなりのユーザーが利用しているゲームだよ。少しの間でも利用できないってなったらそれはそれでかなりの評価落とされるって)
襲撃事件からのSOLテクノロジーの対応はとても早かった。
長時間の大型メンテナンスに入ったがそれも次の日の朝には終了しており、損害が酷いエリアは現在も入ることが出来ないがその範囲も狭いものでほぼ問題がない。
開発が大企業と言うものもあるが、その迅速さには利用しているユーザーだけでなく、同じようなサービスを行っている企業も感心するほどであった。
「(それもそうなんだけど、ならどうしてそんなに技術力がある企業が追っていたプログラムって一体何だったんだろうなって…)」
(大企業が追うくらいだからね。でも、気になることはまた別なんでしょ?」
事件の原因と考えられた大規模スキャンの目的が逃げたプログラムを見つけるためだった。
だが、本来プログラムは逃げるという行動は取らない。
指定された先に移動するといったロジックを組み込めば「移動」はできるが、「逃げる」ではない。
しかも、大企業であるSOLテクノロジーが開発したであろうプログラムだ。外部に流出する危険がある挙動をさせるわけがないだろう。
「(普通プログラムが逃げるなんて考えられないよ。自分で意思があったりしたのならまた別だろうけど)」
(でも普通、意思のあるプログラムなんてわざわざ作らないでしょ)
「(どうだろ…?大企業でも沢山研究開発はするからそう言ったのを研究するのはおかしい話じゃないと思う)」
(…たしかに)
何故プログラムが逃げるという行動が出来たのか。
そしてそのプログラムは一体何なのか。
考えられる技術にはいくらか目星があるが、綾瀬が一番可能性として考えられるのはAIプログラムだった。
現在でもまだ開発段階に有る技術だが、研究の過程でかなり学習されたプログラムであれば逃げるに近い行動もできると考えた。
だが、自発的に逃げるといった研究する側にとって不都合のある行動までするとは考えられない。
「…やっぱりAIプログラムかなぁ…」
オレンジジュースを飲み、綾瀬は小さく呟いた。
すると、すぐ隣から紙がくしゃっと皺になる音が聞こえた。
隣を見ると、そこには綾瀬と同じ学校の制服を着た男子が座ってこちらを見ていた。
手に持っているは紙で、少し見える模様や色から先程買ったホットドッグ屋の紙であろうと考えられた。
「(あ、同じ学校の人か…!?)」
綾瀬は男子生徒の顔を見て驚く。
彼は、以前綾瀬がペンを渡した人物だった。
髪型とあの時にとられた態度を綾瀬は覚えていた。それ以来、彼の事が少し怖いと感じていた。
「…」
「(ど、どうしよう…こっち見てるってことはさっき呟いたの聞こえてたよね…どうしよう…)」
(綾瀬落ち着いて!もしかしたら偶然こっちの方見てるだけかもしれないし)
「(そ、そっか。そうだよね…)」
綾瀬は一度目を逸らしてもう一度彼を見る。
しかし、彼は目線を変えず綾瀬を見ていた。
「(やっぱりこっち見てる!?まって、私勝手に呟いただけだよ。それが偶然聞こえただけだよ!あぁぁ)」
(あぁもう綾瀬落ち着いてって!とりあえず、何かアクション起こさないと)
「(アクションって!?)」
(とりあえず、なにかだよ何か!)
「(斗亜も落ち着いてないよね!?…よし、)」
まずはこの気まずい状況をなんとかしなければならない。
綾瀬はとりあえず、彼に向かってペコリと軽くお辞儀をした。
彼は少し驚いた様子だったが軽くお辞儀を返し、そのまま建物のモニターへと視線を移した。
「(とりあえずなんとかなったけど、一体何だったんだろう?)」
(ん~わかんない)
気になることはあったが、綾瀬には彼に話しかける勇気がなかった。
先程の視線がもし、本当に綾瀬に向いていなかったとすれば勘違いであるし、何より前回のことで彼の事を怖いと認識してしまっているのもあった。
(とりあえずそれ食べて家帰ろう。大丈夫、怖くても私も一緒にいるから)
「(…ありがとう。斗亜)」
綾瀬はホットドッグの残りを食べ終えると、荷物を持って立ち上がった。
オレンジジュースに関しては、帰りながら飲むことにした。
「お兄さん。美味しかったです。ありがとうございました」
「おっありがとう。また来てね!」
青年にそう伝えると、綾瀬は公園の出口へと歩き始めた。
「(ホットドッグは美味しかったけど、まさかすぐ隣で出会うとは…)」
(ほんとね。しかも見つめられてたし)
「(私にとっては睨まれてる気がしたんだけど。呟いていたの聞こえてたら変なやつって思わるよ…)」
(流石に大丈夫だって…でも、やっぱり怖かった?)
「(そりゃあ、少し怖かったよ…)」
(まぁ、流石に前回のこともあるしね。まっそんな事は忘れて家に帰ろ!今日はブルーエンジェルがデュエルするみたいじゃん)
「(そうだね!葵のデュエル応援しないと!)」
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