うそつき
 私は思っている事がすぐに顔に出るタイプだ。
 そのせいで、幼い頃から「お前は忍に向いていない」と親によく言われていた。

 それでも何とか中忍試験に合格してるし、嘘がつけないおかげで友達も多い。
 駆け引きが戦略に繋がる任務では致命的だけど、この性格のおかげでいいこともある。

 それは、思っている事が他人に伝わりやすいせいで、好きな人に言葉で好きって伝えなくても伝わっていたこと。
 おかげさまで、私は私が一番好きな男の子と両思いになれた。

 彼の名前は、

「風影様」

 私は彼の役職名で我愛羅を呼ぶ。
 誰も居ない風影室で、バインダーを持ち替えながら机に向かう我愛羅を盗み見た。
 彼は器用に砂の目玉を机に向けて、彼自身の翠の瞳を私に向ける。

 我愛羅は私と正反対で、一見、何を考えているのかわからないほど顔に感情を出さない。
 彼の表情筋はほとんど死んでいて、家族や付き合いの長い人にしか、感情を読み取ることはできない。
 そんな彼が、私にしかわからない程度に、不機嫌な感情を顕にする。

「……二人しかいない時は名前で呼べと言っただろう」

 私が風影様と呼んだ事が、我愛羅は寂しいらしい。
 不器用で愛しい。私の、好きな人。
 そんな彼に、思わずにやけてしまう。

 どんなに任務でささくれるような事があっても。腐りそうな時でも。
 彼が私を好きでいてくれるだけで、私はいつだって頑張る事ができた。

 私が笑っていることに気づいた我愛羅が、「何を笑っている?」と眉間に皺を寄せて尋ねた。

「ごめんごめん、だって、」
「……『俺の事が可愛いから』なんて言うなよ」
「何でわかったの?」

 私は声を上げて笑いながら、我愛羅に問いかける。

「お前の考える事などお見通しだ」

 飽きれるように溜息をつきながら言う彼に、私は自分の頬を触りながら首を傾げた。そんなに顔に出てるかなあ……。
 不思議そうにしていた私に、彼は砂の目玉を消して再び机の上の書類に目を向ける。

「……言っておくが、好きな女に可愛いと言われて喜ぶ男はこの世界に居ないと思うぞ」
「えー、そうかなぁ?」

 無表情で仕事をする彼を、傍でじっと見つめる。何を考えているのか他の人には中々伝わらなくて誤解されがちな彼だけど。
 いつも真面目で、一生懸命な我愛羅が、私は好きだ。
 そんな彼は無表情でぽつりと呟いた。

「俺なんかより、お前の方がずっと可愛い」
「……!」

 我愛羅はそう呟いて、ふと顔を上げると私を優しく見つめ返した。
 たったその一言で、微笑みで、私の顔は彼の髪と同じくらい真っ赤に染まり熱を帯びる。
 どんなに高等な忍術よりも、我愛羅に可愛いと言われる事の方が、私は何倍も破壊力がある気がした。