四つ葉のクローバー おまけ
【これで彼女もあなたを見直すこと間違いなし!】
【砂隠れの里・デートスポット百!】
【今さら聞けない!デートの新常識&マナー】

「何見てんじゃん?」

 真剣になって読んでいたせいで、カンクロウが後ろから覗いてきたことに気付かず、読んでいた雑誌を真顔でバン!と閉じる。
 振り返り抜の悪そうな顔で睨めつけると、兄はニヤニヤと『新しいおもちゃを見つけた顔』をしていた。

「……何の用だ」
「べっつにー。特に何か用があって来たわけじゃねぇけど? お前こそ何読んでたんじゃん?」
「お前には関係ない」

 俺は読んでいたメンズ雑誌を本棚に戻して、次の任務への支度を再開した。
 カンクロウはいやらしい顔でしばらく俺を見ていたが、俺は視線を無視して部屋を出て行こうとする。

「名前子でも誘うんじゃーん?」

 半分図星をつかれた俺はギロリと彼を睨みつけて、即座に扉を閉めた。

 十年前。
 精神的に不安定だった俺は、名前子の背中に一生消えない傷を負わせてしまった。それは変わらない事実で、幼い頃の記憶は心の奥底に閉まっていても不意に影がチラつく。
 過去の蟠りの解消、人との繋がりを作り風影を目指す俺にとって、名前子との一件も解決しなければならない事のひとつになっていた。

 しかし……何をもって償えばいいのか、俺は今まで考えていた。女性の体に大きな傷を作ることは、人生に大きな重荷を与えてしまうことと同じ。恋人ができても、あの傷を見れば引いてしまうだろう。任務でも、たまに傷が疼いて苦しめる時もあるだろう。

 ごめんなさいで済まされる問題ではないと思っている。
 けれど誠意は見せたい。でも、どれもこれも『今さら』な気がして、苦しい……。
 けれど苦しいのは、俺じゃなく彼女だ。

 そう思い、先週。
 あの出来事から十年後経つその日に、名前子に会いに行った。何を言うかは決まっていなかった。ただ本物の四つ葉のクローバーが無くて、折り紙で作ったものを持っていくことにしていた。
 あの約束を、真に受けるわけではなかったが……。

『私で良かったら、一緒に探すの手伝うよ!』

 俺は、勘違いではあったが一緒に探すと言ってくれた名前子を思い出して口元だけで笑んだ。

 タイミング良く会えたのは良かったが、結局直ぐには言えなくて。
 夕方になってしまったが、ちゃんと謝ることができた。名前子があの時の出来事を今まで忘れていたのには、面食らったが……。

 俺は任務で向かう場所の地形を調べるために、本屋に寄った。『地理』のコーナーを端から目で追っていると、本棚の向こう側に見知った後ろ姿を見つけた。
 地図を手に取って後ろから近づく。その人は『世界の花言葉全集』と青い顔でにらめっこしていた。

「何を読んでるんだ?」

 他人の空似であれば気まずいなと思ったが杞憂に終わった。名前子だ。
 名前子は急に声をかけられて驚いたのか、体をびくりと跳ねさせて俺の方を見た。

「が、我愛羅ぁー……」
「……どうしたんだ」

 向けられた顔は半泣きで、今度は俺の心臓が跳ね上がる。な、泣いてる。

「何で泣いて」
「こ、これ見て……」

 名前子は立ち読みしていた花言葉全集の開いたページを、俺に見せてきた。それは【四つ葉のクローバーの花言葉】のページで。

「四つ葉のクローバーは、確か意味が『希望』『信仰』『愛情』『幸福』の四つだったか。これがどうかしたのか?」

 別の国ではまた意味が違うようだが、このページに書かれていることで特に半泣きになるような意味合いとは思えない。

「違うよ、その下、下」

 名前子が人差し指で差す方を、俺は目線で負った。そこには、

【四つ葉のクローバーの裏話☆】
四つ葉のクローバーの花言葉には、幸運、約束、そして復讐があります☆
 と、書かれている。

「復讐か」

 俺はぽつりと言った。復讐と聞いて思い出したのは木の葉の里のアイツだが、なぜ名前子がこれで泣いているのかさっぱりわからないんだが。そのまま彼女に伝えると、べそをかいた名前子が謝りながらこう言った。

「こないだ私、四つ葉のクローバーを見つけてくれたから許してあげるって言ったじゃない?」
「あ、ああ……」
「我愛羅がこれ見て、復讐と勘違いしてたらどうしよーって思って……!」

 ……。
 俺はぽかんと口を開けた。全くそんなことは考えてもいなかった。勘違いしているのはどっちの方だか。相変わらず、思い込みの激しいやつだな。
 俺は口角を上げて首を振った。

「安心しろ、そんな風には受け取っていない」
「ほんと!? よ、良かったーあ」

 名前子の表情が明るく変わる。そんな彼女の笑顔を見て、俺も微笑んだ。

「この花言葉全集、買おうかな。四つ葉のクローバーってね、他にも花言葉があるみたいなんだよ」
「ほう、どんな?」

 えっとね、と名前子は隣に並んで指先で示す。

「Be Mine ……私のものになって。think of me、私を思っ、て……」

 言いながら、名前子の頬がみるみる赤く染まっていくのに気づいて、俺まで顔が熱く感じてしまう。
 加えて、彼女がフォローを入れようと「あはは、何か告白みたいだね!」なんて言ったが逆効果だ。
 それだと、あの時に言い放った言葉が告白だと言うことになってしまう。

 彼女も同じことを考えてしまったのだろう、『あ』といった顔をすれば俺も名前子もいたたまれなくなって、本を買うと早々に『そ、それじゃあまた』と本屋を出てしまった。

 俺の頬は変わらず熱が引かなかったが、頭の中は次の任務のことでいっぱいだった。場所は確か、木の葉の里に近かったはず。
 本物の四つ葉のクローバーは、そこで見つかるだろうか。見つかったら、今度こそ彼女に渡したい。
 名前子は……喜ぶだろうか。

 自然と口角が上がるのをローブで隠す。俺は柄にもなく足早に、商店街を抜けていった。

end
あとがき

四つ葉のクローバー、これにて完結です。書き始めたら調子良く書けたこのお話、この夢主ちゃんと我愛羅が結構好きなのでまた書きたくなったら、書くかもしれません。