献盃


15触れ合い※





「ひ、広すぎません?お陰で酔いがさめましたよ」

「こんなもんじゃろ」

東京の億ションに住んでる奴を実際初めて見たと彼女は言う。角部屋のリビングから伺える、20年も見慣れたビル群が並ぶ夜景はベルにとっては珍しいものらしい。東京すごい……と言いながらわざわざ窓近くから眺める姿が旧友達とは違い新鮮な反応だった。

「まぁ、一人じゃ場所を余すだけじゃがな」

「ええ、確かに……」

ベルが未だに眺めている窓のすぐ近くのソファに座ると、眺めるのも程々に彼女も自分の横に座った。手を伸ばせば届く距離だが、伸ばそうともしなければ届かない距離、とでも言っておこう。要は、微妙な距離というやつだ。

「……」

「……」

ーー沈黙が困る。
何か話をするべきか、茶でも出すべきか。酔ってはいるのでせめて水分は出すべきかと頭の中で考えは浮かぶ。ただ今座ったばかりなので、忙しなく動くのもどうか……。久し振りの感覚すぎて昔、どうやって自分は女をベッドに誘ったか憶えてはいない。無駄に歳は取りたくないものだ。
すると、幸い彼女の方から沈黙を破ってきてくれた。

「ち」

「?」

「近づいても、いいですか?」

「……おう」

わざわざ許可を求める処がまた律儀。だが案外積極的に来てくれたお陰で間が空くことはなくなる。おずおずと座っていた場所から移動し、ピタリと自分の隣に座るとこの間の父娘役の時のように左腕にしがみついてきた。必然的に当たる柔らかさには気を向かないようにして、更に満面の笑みで上目遣いされれば、たぶん誰だって堕ちるであろう。

「ふふ、ずっとこうしたかった」

ーーーもういいだろう。

ここまで女にさせてしまっては男が廃る。気付いたら触れるだけの口付けをしていて、此方も少し向きを変えてベルと向き合い、正面から遠慮せずに抱き締めた。自分が平均より大柄だからだろうが、自分の腕の中にすっぽりと嵌るような体格差だと気づく。

「すまん……わしもじゃ」

「ふふ。外では恥ずかしいですよね」

「流石にこの歳になるとな。じゃが」

シャンプーの匂いか?やたらといい匂いが鼻腔を擽り、髪を撫でる。すぐに崩れそうな理性を一度引き締め、彼女ともう一度目が合った瞬間今度は深く口付けをした。控えめがちに舌を絡ませるベルが可愛ゆうて、口付けの最後に思わず見えた舌を軽く甘噛みすれば驚いた顔して少しむくれた。
やはり酔いは少々、あったほうが素直になれるのかもしれん。

「フッ……ここなら誰もおらん」

「ん……ええ。二人っきりになりたかったです」

外の視線は遮断され、地位も階級も立場も年齢差もここにはいたずらに咎める者はいない。ただの男と女になれる。
部屋に着いた時からごわごわとしたコートを着たままだったので自分が最初に脱ぐと、彼女もならい紺のコートを脱いでいた。酒の勢いか、自分だけでなく何ならベルさえもその波に乗っている気はする。

「そうだ、サカズキさん。頭触ってもいいですか?」

「?…おう」

こんな場面で素っ頓狂な事を聞かれるとは。彼女はたまにそういう処がある気がする。別に断る理由は特にはないので構いやしないが。
再び抱き締めようと思ったので近づいたついでに、彼女の前に頭を少し垂れると遠慮もなくわしわしと撫でられた。

「ふふ、気持ちいい頭。実は触ってみたかったんです〜」

「なんじゃい……」

此方も気持ちは良いが何となく気恥ずかしさや照れが先に来てしまう。他人に玩具のように頭を撫でられる事なんて、何十年ぶりだろうか。酒の酔いだけでは味わえない、ふわふわとする砂糖菓子の甘さのような感覚が擽ったい。だがまぁ、今日ぐらいはいいか。
抱き締め合って暫くしたところで、お互い服越しではあるが温もりだけは交わせたとは思う。そろそろ自分も、これ以上は理性が留まってくれるかどうかも怪しくなってきた。

「ベル」

「はい?」

「今日は、せんでええぞ」

「?……えっと……」

少し戸惑ってはいるが意味は分かっているようで、視線を逸らしつつも顔を紅くしている。どうせぼかしても致し方ない、はっきり告げた方が親切ではあろう。

「いや。付き合うて早々、節操ないじゃろ」

「……」

彼女とこうして触れ合えただけでも自分には勿体無い時間と幸福だった。流石に20〜30代のような滾る欲に振り回される歳でもなく、ベルに少しでも受け入れられたという事実だけで満たされる心以上に先を求めるは、余りにも贅沢というか。とはいえその先の欲が全くない訳ではないが、付き合って早々向こうだって心積もりの一つや二つあるだろう。
すると、そのまま顔を紅くした彼女は言いにくそうに視線を逸らしたまま、若干自信のなさそうな声で不満気に漏らしたのである。

「さ、差し出がましい事を申しますが、サカズキさんが家に呼んだのも然り、のこのこついてきた私も含めて、既にお互い節操はないのでは?」

「…ぐうの音も出ん」

まさに正論を突かれて何も言えぬ。確かに、まるで紳士のような振る舞いをした処で、家に呼んだ時点で下心しかないので既に節操のせの字もない。彼女は自分自身も卑下しているが、いつの時代も言い出しっぺが諸悪の根源である。

「でも……サカズキさんがお気になさるなら私、お暇させて頂きますね」

ふ、と自分の腕の中から出ていき、横に置いていた紺のコートを取って着ようとするベル。
それは本気か揺さぶりか。一瞬不可解ではあったが、いやいや、ここで逃がしたら据え膳喰わぬは男の恥だ。咄嗟に手首を掴み、動きを制止させるとふふ、と少し目を細めて嗤う。いたずらっ子のような笑みがまた。

「そがぁ、逃げんでもええじゃろ」

「ふふ、意地悪しました」

あぁ、愛い。
何というか絶妙に可愛いらしい処と大人の女性らしさを使い分けてるのがまたいい。語彙力を失う程夢中にさせてしまう彼女に愛しさをどうしてもぶつけてしまう。少々無骨な触り様で口付けを行うのは許して欲しい。

「ん」

柔い唇と白く、滑らかな首を触る。

「すき、サカズキさん…」

「あぁ」

流石にソファじゃ狭かろう。寝室行くぞと手を引き、まだ寒々とした部屋に暖房のスイッチを入れて彼女を押し倒した。電気は点けないで欲しいと言われたので従うが、寝室にも大窓が2枚ある為に夜景の微かな光のおかげでベルの身体はぼんやりと照らされていた。

お互い抱き締め合って身体を撫ぜつつ、ベルの紺のセーターや下のタートルネックを脱がした。セーター越しでは分からなかったが、スリップ越しで露わになる彼女の意外に豊かな胸や谷間に目を奪われ、その白かろう肌を触れる。滑らかで気持ちいい。
ロングスカートや黒のストッキングは彼女が自分で脱ぎ、チラと見えた下の布に期待を抱きつつ、もう一度深く口付けを交わす。明かりがあるところでじっくり見れないのが残念だが。

「可愛いらしいもん、着とるの」

「ん…っ、好きですか?こういうの……」

「お前がつけりゃあな」

細かな刺繍やレースは可愛いらしいものだろうが、色がもう少し分かれば。何にせよ、ベルが着ければ好きなのは間違いない。しばらく見てもいたいが、目の前にある双丘の誘惑に敗けて下着の上からゆっくりと揉みしだいた。

「んっ……やぁ」

喘ぎがまた愛い。
首筋から谷間に向かって舌を辿りながら、背中にある金具を外して上半身身に纏うものを取っ払う。色づきは分からんが形の良さや大きさ、何よりつんとした頂が扇情的で吸い寄せられるように口に食む。

「あっ!……ふっ、……んあ、だめっ」

片方は揉みしだきつつ、もう片方は舌で転がすとベルの声も少し大胆になる。快感に塗れてしまうのに抵抗があるのか耐えうるような表情なのに、以前から触ってみたかったと言っていた自分の頭を掻き抱く様は矛盾していて逆に気分が良い。反対側も同じく快感を与えてやると、ビクッと動かなかった足を少しくねらせていた。此方も酔いもある故か、普段見ないベルの淫らな一面を目の当たりにして滾りが抑えられず、少し意地が悪いが強めに頂を摘んでやると一番大きいあえぎ声を発す。

「んあぁ、っ!」

まだ、足りない。もっとベルを食い尽くしたい。
徐々に脇腹から腰回りを撫で、胸の愛撫も程々に太腿に手を置きはじめると彼女から制される。

「サカズキ……さん」

「?……」

怖じ気づいたか?流石にここまで来ると蛇の生殺しではあるが。幸い、自分の思惑とは違い彼女の不満は引っ張られた此方の衣服にあったようだ。

「これ、脱いで欲しくて」

「あぁ…すまん」

相手を脱がすことばかりで、自分は未だにセーターのまんまであった。彼女ばかり衣服を剥ぎ取っていては不服であろう。少々乱暴にセーターと下のシャツまで脱ぐと、露わになった上半身を目の当たりにしたベルが少し目を見開いた。

「わ……すご」

思い出すのも鬱陶しいが商売女からも言われた事があり、年相応の筋肉量ではないと物珍しがられていた。むしろ他の同世代の男が筋肉を付けなさ過ぎるのだと言いたい処だが、今は正直そんな事どうでもいい。
直にベルの体温を感じたくて、後ろから抱き締める体勢を取ると互いの肌が重なる感触が心地良い。彼女は本当に、綺麗な身体だ。引き続き片方の胸を揉み、ベルの片耳を食むと悩ましげな反応にまた唆られる。

「興奮したか?」

加えてまだ外してない下着の上から割れ目であろう処をなぞる。湿り気を帯びているのを確認して何回か強めに往復させると、恥ずかしいのか彼女の手が自分の手を制止するように押さえてくる。勿論、そんな弱々しい抵抗は物ともしないが。

「ふぁっ……ん…さ、サカズキさんだって…ぁ…」

「そりゃあ、のう」

自分も彼女の臀部に隆起したものを押し付け、年甲斐もなく興奮している事実を突きつける。どれだけ歳を取っても、好いた女の前じゃ本能に抗えないのは、ベルに出逢えたお陰だと思い知る。部屋の暖房が効いてきた処ではあるが、既に互いの体温や酒の火照りで、若干汗を搔く程熱い。
体勢を変えて、彼女を再び押し倒す。恥ずかしそうに最後の一枚を押さえてはいたが無駄な抵抗だ。ずるずると下に下げて、既に少し濡れた股の間に割って入る。顔をそこに近づけるとあからさまに拒否の意向を示す手が阻むがシーツに縫い付けておいた。

「ひっ……ん……やだぁ」

「我慢せい」

暗がりの中じゃよく分からんが、茂みを分け濡れそぼったそこを舌で撫でるとびくっと反応する。いい処だったのか、撫ぜる度にいい反応をするので強弱をつけたり角度を変えてやると次第に甘みの増す声。指を一本だけ穴に邪魔させて蠢くと、腰を少しくねらせて快楽から逃げようとする。
途端、ベルの声が先程の喘ぎよりも低く、焦りの混じった反応になる。切羽詰まった時は案外、地声に近くなるもの。

「まって……!ちょっ…あっ、あぁっ、やめっサカっ!」

「……」

止めろと言われると止めたくない。閉じようと強張る彼女の両太腿を拡げさせ、ただ快楽に一度溺れて欲しい一心でそのまま舌と指による愛撫を続ければ。彼女は天を仰ぐような気持ち良さの為に自分の名前さえ最後まで言えなかった。

「ひ、あ"ぁぁっ!っ……あ、あ……」

「イったか」

果てたベルの姿を見ただけで背徳感や高揚感が抑えられなかった。普段の清楚さからかけ離れたこんな淫らな一面は自分のものだけでいい。そろそろ辛抱堪らん自身を下着から取り出し、避妊具をつけ、未だにヒクつく彼女のそこに宛てがうと、弱々しい抵抗で胸を押される。

「はぁっ……まっ、て…しゃかずきさん……私」

「好きじゃ、ベル」

「っあ、私も!……好き、んあっ…だけ、ど、んんう……!」

ベルの唇を塞いで、明らかな卑猥な音と共に彼女の中に入った。意外と強く狭ばる膣の圧力の持っていかれそうになったが、何とか保たせる。両脚をしかと拡げさせて、痛さから逃れられるように胸の頂をまた弄った。

「あっ、っん……ゆ、っくり……」

「はぁ……痛うないか」

できるだけ彼女の要望通りゆるりと腰を動かすと、濡れは十分だったからか滑りは悪くない。奥までしかとたどり着こうと進めると、あるところで行き止まりに着いたらしくベルとの密着に隙間さえもなかった。だが、これが正常位で最も安定するのに、彼女は何処かご不満のようだ。

「ふぁ…は……奥、……だめっ」

「何でじゃ?……っ、浅めが好みか?」

生理的な言葉なのだろうが少し揶揄いたくて、抜き差しを奥まで詰めずに浅めで留める。勿論そうすると自分も物理的に彼女から離れてしまうのだが、それがどうも嫌だったのか?とうとう涙が出てきてぎょっとしてしまう。

「〜〜っ、ちがっ……んん、んっあっ」

「すまん……」

女の涙はどうも苦手で余計な事をしてしまったと後悔する。お望み通り奥まで小突きつつ、詫びとは言わんが深い口付けするとそういうつもりではないとベルからも何故か謝られる。どうやら涙は本当に哀しくて泣いたのではないらしい。

「んん、ん!っは……いっ、しょが、あっ、ん……いい…の!」

「……」

ーーーこの女を閉じ込めたらいかんか?
征服欲なのか支配欲なのか、何と形容すべきかいいか分からない程繋ぎ止めたいと思ってしまった。一度失敗しているからこそ、今度こそは慎重に、優しく、相手の気持ちを尊重すべきと反省しているのに、もう既に箍が外れそうで困る。ベルと自分を阻むたった何ミリかの壁さえもどかしい。
そろそろ果てそうになって、しかと彼女の腰を掴むと首後ろに回された腕のお陰でまたベルとの距離が近くなった。

「好きっ…あっ…サカズキっ……っ、さん……!」

「ベル………!」


“好き”はまだいい。
だが“好き過ぎる”は魔物だ。確か自分は少し、愛が重たかった気がする……。



触れ合い。
(身も心も)

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