献盃


17刹那※





1月は行く、2月は逃げる、3月は去ると昔の人はよく言ったものだ。正月に彼と初めて出会って既にもう桜が舞いそうな季節になってくるとは。

「そういやぁ聞かんじゃったが、異動はないんじゃろう?」

既にお風呂にも入って、寝室で一緒に寝るまでのぐだぐだした時間。サカズキさんの逞しい筋肉がどうなってるか気になって好き放題お触りしてると不意に聞かれる。業界業種、職場によっては異動辞令がいつの時期でどれくらいの期間かは様々だろうが、私に限って言えば検察事務官は基本同じ支部に大体2〜3年は所属する。そして1月の中旬には既に辞令は出ていたので、サカズキさんにも伝えそびれてしまっていた。

「あ、はい。私、去年から本庁勤務だったので。今年も異動はなしです」

「あいつは?お前を付け回しちょった」

「後輩君は異動です……」

今になって思えばバレンタインの日、多分異動辞令が1月に既に決まってたから強行アプローチに来てたのだろうか…。あれから全く関与して来ないし、偶然道端ばったり出遭う事も一切なく、やはりサカズキさんとの父娘節が効いたのであろう。本当なら上司に一言相談として伝えたかったが、異動でもう関わる事がないなら此方としても事なかれで終わりたい。

「サカズキさんも異動ではないんですよね?」

「あぁ。この役職まで来るとそのまま上に昇るか、一旦地方の県警本部長やら管区局長を経験してからまた本庁に戻ってくるじゃろうの」

地方か。首都圏なら何とか通勤できるだろうけど、新幹線の距離となると流石に引っ越されるだろう。サカズキさんの仕事に関しては詳しくは知らないが、局長級ともなるとその後の出世枠も限られたエリートのみでの争奪戦と聞いた事がある。取り敢えずは、あと1年は本庁にいらっしゃるはずとは思うが。

「あと1年は少なくとも本庁勤務なんですよね?」

「急な出向がなけりゃあな」

出向……。必ずしも東京にずっといられる訳ではないと聞いて哀しい。サカズキさん程のキャリア組のエリートなら当然の事なんだろうが、こうやって今一緒にいられるのも幸せな事なんだと思うと切ない。寝転んでいた彼の横にぴたりとくっつき、情けない顔を見られたくはなくて二の腕に顔を埋めていると優しく髪を撫でられる。私はこのひとときが何よりも愛おしい。

「お前もついて来るか?」

「……。いじわるな質問です、それは」

普段とは違い、本当に優しく甘い言葉なのに残酷だ。
他の都道府県にも勿論検察庁はあるが、私の採用地域は東京都内のみであるため県外に異動はできない。つまり、もしサカズキさんが仰る通り地方に“ついて行く”のであるなら私は仕事を辞めざるをえない。仕事を辞めてしまったら、何の資格も免許もない私が今以上の年収が貰える再就職先なんてまずないし、そもそも最初は無職で過ごさねばならないし…。現実的な話で言えば答えは“ノー”だ。

「此方は有り難いがのう、その方が」

サカズキさんは時々、暗にそういう事を言う。合鍵にしても同棲についてもそうだが、甘やかしてくれるのは有り難いけどたまにそれに乗っかってしまいそうな自分を律するので精一杯だ。一応これでも、自分の仕事に誇りはあるし例え家庭を持ったとしても安易に辞めたくもない。同棲だってプロポーズでもされればアリだとは思うけれど…。

そもそもこんな事を言ってても、サカズキさんはもう二度と結婚なんて考えてないかもしれないし。

「すき」

そこまで考えついてしまう自分が嫌で、誤魔化すようにサカズキさんにキスをねだる。嫌だなぁ、最初は好きだから一緒にいたいと思ってたのに、その先を考えるとそれを阻む要因に向き合いたくないなんて。
それでも、どんなサカズキさんでも一緒にいたいと思ったのだ。自分の今の気持ちに、嘘はつけない。

「あぁ」

「もっと……ほしい、サカズキさん」

「……」

軽めのキスしかくれなかったからもっとねだると、押し倒される。深めのキスが降り掛かって早々、パジャマの上から遠慮なく胸を揉まれて感じてしまう。やっぱり気持ちいい、もっと来てほしくて彼の首の後ろに両手を回すと若干抵抗されてギリギリまで近づいて来て頂けない。更に本人は至って真面目な顔して言ってきた。

「欲しいならくれてやるわい、じゃが」

「?」

「きちんと受け止めん子にはお預けじゃ」

ーーー私が今まででサカズキさんを受け止めない事ってあったかしら。
何が不満かいまいち分かりかねるが、どんなサカズキさんでもきちんと受け止める覚悟はあるつもりなのでそれでも縋ってねだる。

「受け止めるから、ね?きて?」

「フン、どうだかのう」

何だか未だに信用されてないのが謎だったが、口ではそう言っていても身体は許してくれたらしい。キスをされながらぎゅっと抱き締めてくれる大きな躰、頭から足の先まで翻弄させてくれる大きな手。出逢った当初は怖いと思った眼光炯々としたまなざし。

「ん、んんっ………」

「(お前が思うとるんより、随分重い愛情とは知らんのがな…)」

1ヶ月以上は経って、それはもう何回か身体を交えた。彼は確かに普通よりは旺盛な人ではあると思うが、だからといって雑な抱き方は一切しない。ひとつひとつ、同じ処を毎回辿るとしても徹底的に触れていない場所を残さないかのような。
ただ残念な事に。とても嬉しいはずなのに、サカズキさんにもう触れられただけで性急に下腹部が彼を欲して切なくなってしまうのだけが難点ではあるのだけれど。

首筋から胸元、二の腕と辿られるうちにパジャマが剥がれていて下着の隙間から手を入れられて胸を揉まれる。最近は胸の愛撫も愉しまれてるのか揉み方に変化があって、早く頂に刺激が欲しいのにゆるゆると外側から焦らして来られるのがもどかしい。

「はぁっ……ん……っ」

少し彼の手が擦れるだけで敏感で、意図して頂を刺激されたらどうなるのだろうと思うだけで期待してしまう。もっと乳首触ってほしい……なんてはしたない言葉言えなくてただサカズキさんの揉む手の首を弱々しく掴むことしかできない。此方の願望を知ってか知らずか、今日は下着を下から上へ大きくずらされて彼に剥き出すように胸の頂を露わにされる。羞恥心を感じる間もなく、彼の息が微かに掛かって気持ちよくて思わず目を瞑る。

あ、だめ。吸われちゃったらもう。

「ひゃあんっ!」

「……」

緩急つけられて舌を優しく転がされるだけで気持ち良いのに、そのうち空いた手で鳩尾や臀部を撫でられて後、パンツの中の割れ目に直で触れられる。胸と同時に快感を与えられてしまうとすぐイきそうだったから今度こそ下腹部に触れる手を制止しようとしたのに。

「あっ……ふ…まっ、て……ひゃっ…!」

「濡れとるの……まだ触ったばっかじゃろ」

「んんっ、あっ!あぁっ……いやっ」

少し彼に触られただけで条件反射のように感じている事がバレて恥ずかしい。制止しようとして胸にも下腹部にも気をやられて追いつかず。遠慮なく中に入ってきた指すらも容易に飲み込む様が視界に入って、シーツに顔を埋める。上は舌の感触で、下は蠢く指に良い処を探られて、このまま放置してたら正直すぐイきそうになる。

ーーーいつも、私ばっかり。
どうにか彼にも同じ想いをして欲しい。

「ん?……」

「私も、したいです」

一瞬全身、身を固くしてサカズキさんからの愛撫を何とか拒んだからか少々訝しげに見られたが、今度は彼に寝そべって貰いいつも彼がするようにその大きな躰を押し倒してみた。私の行動に驚いたのか、若干目を見開いた気がするが意味が分かったのかすぐにニヤ、と悪いお顔をされてる。サカズキさんのそういう表情、好き。

「殊勝じゃの。おとなしくされたまんまでも構わんが」

「わ、私ばっかりなんですもん。サカズキさんにも気持ち良くなって欲しいの」

いつも彼は丁寧に抱いてくれるから。
触れるだけのキスをして、首筋から下へゆっくりとキスをしていく。たまにちろ、と舌を転がしていくと鍛えられた胸筋の上の頂にたどり着く。私は触られたり舐められたりするだけですぐ感じてしまうけど、男の人ってここは感じてくれるのだろうか。おずおずと口に含んでみると、ちょっとだけ頂が立っている気がした。

「………」

「………」

ちら、と彼を盗み見ても全然微動だにしてくれない。あれ?と思って反対側の頂も指を使って少し摘んでみたり、舐めてる方も多少甘く噛んでみる。するとその様子がおかしかったのか、フッと小さく鼻で嗤われてしまった。

「小鳥が嘴でつついとるみてェじゃ」

「むう……」

興奮して感じてくれるどころか、子どもの御使いを終えた後のように優しく頭を撫でられて余裕をかまされてる。自分でも下手くそなのは分かるんだけど、うーんどうしたら。
やっぱり、下で大きく唆り立ってるモノのほうが刺激が強いのか?実を言えば男の人のそれを自ら触るのは地味に初めてだったりする。少々胸を高鳴らせながら、彼のズボンと下着を一気にずり下げようとしたら、気遣って頂いて脱がせやすいように腰を浮かしてくれた。

「っ……」

大きい。そして何というかグ……。
とても毎回自分の中に入ってたとは思えなくて、視線を逸らしたいけど気持ち良くなって欲しいと言った手前引き下がる訳もいかず。意を決して、遠慮がちに亀頭にちろちろと舌を転がすと初めてサカズキさんがぴくっと動いた気がした。微かに彼の汗の匂いも混じっていて、頭がくらくらする。

「ぁむ……ん」

「……」

舐めるだけでなくてゆっくりと手で包んで上下に動かしてながらしてみると、少しだけサカズキさんが眉に皺を寄せて息が浅くなっていて嬉しくなる。案外、舐めるよりは上下に擦った方が反応が良かった様な気がしてそっちにシフトする。心なしかさっきより硬くなって熱いような?
こんな感じ?分からん……。

「きもちい……ですか?」

「あぁ……」

ーーー可愛い。サカズキさん、顔紅くなってる。
厳格な彼の普段は見れない、快感に耐えうる切なげな雰囲気が堪らなく愛おしくて、是非とも次回もご奉仕させて貰おうと内心決心する。
ただ問題がひとつあって、これ、どれくらいの速さでどれくらいの時間、上下に擦ればいいのだろう?
暫くして、ちょっとだけきつめに握り、速さを増して上下に擦っていくと途端、不機嫌そうな声での動きを止められた。

「まてや」

「わっ……ん!」

性急に再び押し倒され、深いキスをされる。若干唸る声が怖かったけれど、多分イきそうだったのかしら。
渇き始めていた密壺にも彼の指が再度入って来て、また下腹部にきゅんとした感覚が戻ってくる。だが最初よりは滑りが悪くなく、少々の慣らしで良いと判断したのか避妊具を付けた後、今度は先程私が可愛がったソレを入り口に宛てがわれた。

「足りん」

「私も……足りません」

「……」

息遣いが交差して呆気なく受け入れてしまう。ぐぐっと押し広げられる感覚は毎回慣れないが、愛しい人の物だと思うとその痛みさえ好きで堪らなくなってしまう。

「んぁあっ!あぁっ……あっ、あっ」

「ベル……」

いつもなら入れて暫し慣らす為にゆっくり動いて下さるのに、今日はサカズキさんも余裕がなさそう。きっとご奉仕が効いたのかもしれない。
流石に痛がると止めて下さるけど、曖昧な喘ぎ声しかしない時は腰の動きが若干速い気がする。彼が私の腰を掴む手が強くて、否が応にも密着するこの瞬間が堪らなく幸福だった。

「んんっ……あっ、すきぃ!すきっ、…なのっ……!」

「あぁ……っ、よう、知っちょるわ」

「はっ…あっ……ん、んんっ…」

キスをねだると応じてくれる。この体勢で突かれながら深いキスをするのが好き。もっと、もっと、近づきたくて両脚を彼の背中に回してホールドし、首後ろにも両腕を回すと流石に彼も苦しくなってきたのか、息継ぎを求めた。すると、サカズキさんから少し呆れた物言いで聞かれたのである。

「っん、はぁっ……あぁっ!あっん………」

「っ…はぁ……そがぁ一緒に……いたいか?」

そんなの、無論だよ。
好きだからこそ一緒にいたい。たとえ異動で遠くに離れたってもう、土日は新幹線で会いに行きたい。新幹線も痴漢の一件で怖くなったんだけど……。それでも、あなたに会えるのなら。

「いたいっ……!ずっと、はぁっ……一緒が、いいのっ」

「っ……ベル」

腰の動きが速くなって早々、びくりと躰が揺れて珍しくお互い同時に果ててしまった。荒い息遣いが交わる中、呼吸が整うまで暫く抱き締め合う。
いつも、ずるっと彼が私の中から出て行くと、敏感故か下腹部が少し切なくなる。なかなか動けないので未だに横になっていると、避妊具をゴミ箱に捨ててたサカズキさんが気になる一言を洩らしていた。残念ながら気怠かった私はその時気にも留めていなかったのだが。

「ほんならよォ……(二つ返事でわしについてきんさいや)」

「?……」

後々になって分かった事ではあるが、彼の本心はもし自分が地方に異動になったら、たとえ嘘だとしても、迷いなく私に「ついて行く」と言って欲しかったらしい。この時の私には到底、言えなかった言葉であった。


刹那。
(嘘でもいいから)

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