献盃


27巡り合わせ




「父親……?」

「オォ〜?」

呼び出された件は仕事の話でもなく上司の愚痴でもなく、開口一番父親の話だと言われる。何だ、お前の父親がどうしたとクザンに尋ねると、自分の父親はもういねェと突っ込まれる。
すると以前、クザンからしつこく追及された時の女性についてと言われる。そう言えば数カ月前、本屋で奇跡的に再会した後、ベルと別れた帰路の途中クザンに付きまとわれたのを憶えている。
つまり、ベルが父親に会っていたと?

「あぁ、先週の話だ。30年振りにそのおっさん、娘に会ったがすげぇ嫌われて逃げられてたんだわ」

「……」

繋がった。どおりで福岡に行った土日、ベルがずっと上の空だった訳だ。

ベルの父親ーーー。
彼女から話しか聞いた事はないが、31年前、ベルを孕んだ母親に堕ろすように迫り、拒んだ母親とは別れ、勿論養育費も払わず、その後娘の前に一度も現れなかった人物。これだけ聞いても無責任で非情な父親としか思わなかったが、何故今更娘の前に現れたのか。自分との結婚の話だって挨拶すら済んでいない段階だった。ベルが動揺するのも無理はないし、きっと自分に相談しなかったのは気を遣ってくれていたのだろう。

というか、どうして父親は娘の居処を知ってるのだろうか。普通に考えれば土曜日に挨拶したあの母親が漏らしたとしか思えないが……。
これは直接、彼女にもゆっくり事情を聞かねばなるまいと思うに至っていると、ボルサリーノが思い出したようにクザンに問う。

「んん〜?ちょっと待ったァ、クザン」

「何だ、ボルサリーノ」

「その父親はあれかい?黒スーツで、優男っぽい。身長も年齢もわっしらとあまり変わらなくて、芸能人の◯✕に良く似た」

芸能人の◯✕がテレビもドラマも観ないのでよく分からないが、とにかく優男っぽい親父なのだろう。ベルの父親というなら、まず自分の系統の顔ではなさそうとは思う。娘は父親に似るとよく聞くし、何となく想像がつくようなつかぬような。

「んあ?何で知ってんの?あんた。一応写メ撮っておいたが……ほら、コイツでしょ?」

確かにボルサリーノが知ってるのも不思議だと思いつつ、クザンのスマホに映る写真に目をやる。
ふむ、少しベルの面影に似ているような気もしなくもない、しかしあれだ。自分は絶対こういう優男タイプとは馬が合わないだろうと思う。
呑気にベルの父親を眺めていだが、隣でボルサリーノは驚いたように息を呑んで顔を少し歪めていた。

ん?ちょっとまて、そう言えば以前……。


「それ、君の元嫁の旦那だよォ…。ほらぁ、サカズキ。以前言っただろう?東京地検の前で元嫁の旦那が人探ししてるって話」

「な……」

「………」



ーーー嘘だろう。この世にそんな偶然があってたまるか。


 
「………え。どゆこと?」

「そのベルちゃんの父親は息子がいるって言ってたんだよねェ〜?」

「あぁ、20年前に結婚して一人息子がいて、嫁さんは京都の警官してるって。残念ながらこの春に離婚したらしいが……え?じゃあなに?お前の別れた嫁の旦那だったの?あのおっさん」

完全な黒だ。
20年前結婚して、一人息子がいる事も、京都で警官してる嫁がいる事も。自分にとって唯一無二の親友であるボルサリーノが、京都駅で見かけた家族連れの親父と、日比谷公園でベルに声かけた親父と一致している。その動かぬ証拠がこの写真。
まさかこの春に離婚していたとは初耳だったが。

つまり、20年前のあの間男らしきはベルの父親だったと……!?

衝撃な事実すぎて一度で頭の整理が追いつかずに、眉間を擦る。数十年ぶりか、とてもじゃないが理解が出来ずに兄弟に助けて求めてしまった。

「頭がついていかんのじゃが、ボルサリーノ」

「わっしも〜」

同じく兄弟も開いた口が塞がらないようだ。それぐらい、信じられない程の偶然、必然、運命。今度こそ好きになった女の父親が、自分の元嫁の夫だったなどいったい誰か予想できよう。

驚愕したのは事実だが、だからといって怒りだとか恨み辛みがすぐ湧き上がるというより、ベルと出会った運命的なものを感じてしまう。そもそも彼女の父親どうこうの前に、元嫁が婚姻中に浮気を選択した事は事実。彼女の父親でなくても、違う男と浮気していたかもしれない可能性だってあった。
勿論ベルに非はないし、それを罪悪感に思う事なんてないのだが……。

ボルサリーノと共に押し黙っていると、クザンは気まずい雰囲気の中、未だに納得できないと不服そうにしている。

「ちょっと待て。そもそもベルちゃんて子はお前の何なの?恋人?」

「……」

「いや、黙るなよお前」 

あまりプライベートの事を広島の旧友以外に伝えたくはなかったが、ここまで話を突っ込まれてしまうとクザンには打ち明けた方がいいかもしれない。
だが自分の口から言いたくはない。ちら、とボルサリーノの方を見ると意を汲んでくれたのか、少し呆れた顔してクザンに伝えてくれた。
伝えた途端に奴から信じられないという顔をして、暫く非難されたが。

「婚約者だよォ?つい最近プロポーズしたんだと」

「はぁ!?そっちの方がビビるわ俺は」

「何でじゃ」


巡り合わせ。
(何歳差だよ、ったく)
(22歳差だよォ?羨ましいでしょォ〜?)
(何でお前が自慢しとるんじゃ)

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