献盃


8父性or恋





新宿での飲み会なんて言うから何となくワイワイ皆で酒を交わす会だと思ってた私が甘かった。男性4人女性4人がっちりお見合い状態な並びに気付いた時には時既に遅し。その男性陣の中には、この間私が帰る時も声をかけてきた職場の後輩君もいて偶然出会った事に驚いたのだけれども、どうやら他の男性陣の警察庁組の一人が大学の同期らしくて、後輩君はその伝で誘われたらしい。
 
「意外ですね。ベルさん、出会い求めてたんすか」

「あ、うーん…まぁ、そんなとこかな」

ヒナめ、合コンなら合コンって先にそう言って欲しかったな。
職場では私はあまりプライベートに関しては徹底して言わない事にしてる。仕事とプライベートは完全に分けて考えたいタイプだし、詮索されるのもどうも煩わしい。まさか後輩君が合コンに来ると知っていたら絶対来なかったのに…まぁ取り敢えずは出会いを探してる風にして趣味に関してちょっと聞いてみるか。

「ね、君は趣味ってある?」

「趣味ですか?そうですねぇ、最近はサブスクで映画鑑賞よくしてますよ、あと動画視聴とゲームですね」

「まぁ……そうだよね」

私もそうだが、趣味を見つける行程で動画視聴は欠かせないだろうし最近の人はサブスクで色々観て時間潰してそう。サカズキさんに聞かれた時も動画視聴って答えそうになったけど、彼にとってはちょっと話題を振りにくい趣味かと思って止めておいたが。

「あ、先輩。僕、最近東京観光に凝ってるんですよ。意外と東京って見るとこあって……」

「へぇ、なるほど」

私も盆栽してみるかな……?
申し訳ないが後輩君からの話も半分も聞いていなく、盆栽ってマンションのベランダに置いても大丈夫なのか、たまにお店で見る小さい盆栽なら私でも育てられるか、そんな事ばかり考えていた。



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合コンが終わってから、各々解散した。一組意気投合したカップルがいたらしく意気投合してお熱い事に一緒に帰っていった。その後、後輩君からLimeを聞かれたが一応断っておく。職場での付き合いはドライに限る、仕事上必要になって連絡する事なんて今までもなかったので。
やっと無理矢理付き合わされた合コンもお開きになった事だし、私とヒナは目配せして新宿のいつもの居酒屋に赴く。私たちは大学卒業後からは大体決まってその居酒屋で飲んでいる。二人きりなると開口一番、涼しい顔して一言優雅な謝罪。美人なヒナだから許されてるんだろうけど。

「悪いわね、急に呼び出しちゃって」

「もー、合コンならあらかじめそう言ってよ〜」

「だって言っちゃうとあなた来なくなるもの。まさかベルの職場の後輩君もいたなんて知らなかったけど」

彼、結構イケメンねとヒナは言っていたが少なくとも私は正直タイプではない。サカズキさんの方が背が高いし、筋肉が……と、彼と比べる時点で私はサカズキさんをどう思ってるか、誰かに確認するまでもなく一目瞭然の想いを募らせているんだろう。じゃないと、警察庁までストーキングしないもの(もう二度としないけど)。

「でもあなた、独り身のつもりなんでしょ?ならちょっと付き合ってくれてもイイんじゃない?ヒナ、疑問」

「いや、そうだけどさ……」

「それとも?合コンに行くと何かまずい事があるのかしら」

凄くまずいですね。
昨日の人生談義で埋もれそうになったが、嬉しい事にサカズキさんからまた連絡しても構わないかと聞かれちゃったんだった。別に付き合ってもいないから合コンにどうこう言われる筋合いもないけど、不誠実な気がして今後はヒナに申し訳ないけど合コンは断ろうと思った。

「んー、ちょっと気になるなって」

「まさかとは思うけど、例の逆ナンした?」

「……」

図星だったので黙っていると、げ、って顔をされた。
それだけでヒナがサカズキさんの事どう思ってるかよく分かったよ。でも流石はヒナ、一切批難する事無くあの会食の後どうなったかを聞いてくれた。もう隠してても仕方ないので、つい昨日書店で偶然また遭った事、サカズキさんと交わした人生談義を話す。昨日思い悩んでた母親の事まで一気に話しちゃうと、最後にクスクスとヒナは笑って言った。

「ふふふ。やっぱりまともな事言うのね、赤犬って」

「赤犬?」

「あいつの別称よ」

犬?なに、可愛いわぁそのあだ名。
ヒナが言うには雉だの猿だの他にも動物の名前に因んだ局長級はいるらしい。確かに、いい歳したオジサマ達を動物に例えるって、何だか愛着湧いてくる。

「何かさ、怒られたっていうか諭されたんだけど。不思議と悪い気はしなくてさ」

「失礼は承知で言うけど、それはあなたにお父様がいないからって事もあるんじゃない?お母様は結婚に失敗してるから、言えない立場なんでしょ」

「あぁ、そういう………じゃあ、私って内心父親を求めてるのかな?」

ヒナに指摘されて少し考える。私は父親の顔も姿も一切知らないし、肝心の母は父親の詳細についてだけは一切語らなかった。幼い頃からそれが普通だったから、父親がどんな人間なのか知りたいと思う事はあったけど知らなくても取り乱さず生活は出来ていた。しかし潜在的に実は私は父親を求めていて、偶然父親と同じくらいの歳であろうサカズキさんに関わったお陰で惹かれているかもしれない、と。

「まぁ、年齢差考えればそれもあるでしょうけど。ある意味あれね、ほら……パ」

「やめてまじで」

変な風に聞こえるから。
何だか嫌な予感がしたから、少しキレ気味に制止したら流石のヒナも自重してくれた。サカズキさんとの関係を金銭と性が絡んだ不純な関係だなんて絶対言ってほしくない。あの時、何の得もないのに痴漢から助けてくれたんだもん、むしろ逆だよ。

うん、違う。
父親が欲しいと思うならもっと甘えさせて欲しいし、もっと我儘なお願いさえも聞いて欲しい。私はサカズキさんにそんな傲慢な欲求はない。ただ、一緒にいたいし、私の事を女性として見て欲しいなと思うだけ。
ヒナにそう伝えると、私の親友を見事誑かしたわねあのナイスミドルと呟いていたが聞かなかった事にした。

「あなたの完璧な人生計画とやらは立派よ。でもどうせベル、結婚しそうだと思ったから何も言わなかったのよ。ヒナ、傍観」

「え、何それ」

それは初めて聞いた。単純にヒナは私の計画的な人生なんて興味なさそうだと思ったから。するとヒナが自分のポケットから何やら折られた紙を出す。先程の合コンで一番話さなかった男性から私に、連絡先を書いたこの紙を渡して欲しいと言われたらしい。

「男がほっとかないタイプだから。逆に私みたいなタイプが一番婚期逃すのよねぇ、これが」

「スモーカー君は?」

「あいつはただの腐れ縁」

「本当かなぁ?」

「しつこいわよ。ヒナ、心外」

大学時代ヒナと同期だったスモーカー君の事を話し出すとヒナは何故かムキになるのが可愛い。普段冷静沈着なタイプなだけに、図星が当たった時の不機嫌な顔が加虐欲を唆るというか。そう冗談を交えて言うと、ヒナから「あなた、趣味悪いわよ男の趣味もね」としっかり言い返された。

「で?どうするの、その合コンの奴からの連絡先」 

「ううん。申し訳ないけどお断りします。言っといてくれる?」

「そう。分かったわ」

やっぱり持つべきものは親友だ。ヒナはグサッと言う時もあるけど基本的に余計な一言もなく親身になってくれる。美しさもそうだが、飾り気のない優しさが彼女の魅力だと言う事をスモーカー君にもっとプレゼンしたいぐらいだ。

もう一杯、ビールをおかわりしようとした処でスマホに通知が来る。待ち焦がれた人からのLime通知を見ること程、嬉しい事はない。


【来週の土曜の昼、会えるか】

「(きた……!)」


父性or恋。
(これは正真正銘の恋です)

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