12天使と悪魔※
ベルが自分の家に転がり込んでから1週間ちょっと。
ストーカーの件はともかく、彼女の体調はだいぶ快復していった。まだストーカーからの恐怖が完全に消えたとは言えないが、顔色は良くなったし、徐々に食欲も出てきたようだ。それは大いに結構な事ではあるが、対して自分は健康的であるかと言うと何とも言えない。
いや、食事は作ってくれるし家事も手伝ってくれるので自分の負担は減ったが、別の意味で不健康かもしれないという事だ。
「っ……」
脱衣所に入る前、ソファで仮眠していたベルのスカートの裾が捲り上がっていて、可愛いらしいピンクの下着がちらりと見えてしまった。
熱めのシャワーを浴びて早々、正直に唆り勃つ息子が憎たらしい。まぁ確かに、転がり込まれてから慰める回数も減りはしたが。盛りのついた高校生でもあるまい、自分の性欲すら意のままに抑える事が出来んとは。
目を瞑り思い描くは、彼女がおずおずと服を脱がされて恥ずかしがる光景。自分に翻弄されて喘ぎを我慢できなくなるような、そんな不埒な……。
「………(くそ、止まらん)」
駄目だ、欲が収まらない。
無意識に伸ばす右手がいつも以上に快楽を欲している自身を上下に擦る。そりゃ当然だ。好いた女が目の前で無防備に寝てるのだ。この1週間、自分の理性の壁を何度打ち壊されそうになったか。彼女から手を繋がれた時は、本気で押し倒しそうになってしまった。
「は……」
天使と悪魔が囁く。尤も、自分の中に天使なんて可愛いらしくて綺麗なものがいる訳ないだろうが、良心と悪心がせめぎ合うとはまさにこの事を言うのだろう。
駄目だ、彼女は怖がってる。被害者だ。
いや自分だけには怖がってない。見れば分かる。
駄目だ、こんな自分を幻滅されるかもしれん。
いや自分だけには寛容さが目立つ。気にしなくても。
駄目だ、それではあの外道と何ら変わらない。俺は正義であるべきなのに……!
いや好いた女に滾るのは当然の生理現象なのでは?
「(くそったれが……!)」
思いっきり自分の白濁を宙に出し、排水溝にシャワーのお湯と共に流れていく処を見て改めて自己嫌悪に陥る。
傷心中の女を自分の部屋に連れ込んだ時点でこうなる事は分かっていたはずだ。だが、何処か行く宛のない八方塞がりなベルを見ていると、何か力になってやれないかとお人好しになる自分がいる。助けもしたいし、安心もさせてやりたい。と同時に、触れたいし近づきたい思いも容赦なく襲ってくるのだ。
「………ベル」
俺は、ベルの身を脅かすストーカー野郎と何が違うのだ。持て余す性欲をぶつけたくてたまらない、彼女が脅える男性像と何ら変わりないのではないか?
たまたま、“友達”としてなら近づいてもいいと言われ、事情はあれど成り行きで共に過ごしている。野良犬は野良犬だが、化けの皮が剥がれて狼にでもなってしまえばいよいよ兎に逃げられてしまうであろう。出会った頃、ベルを襲ったあのチンピラ達には死んでもなりたくないと誓ったのに。
これ以上、彼女に近づいていると本当に自分が自分でなくなりそうで、極力自宅でも面と向かう時間を少なくしようと思った。ベルは煙草は苦手なのか、ベランダで吸ってる時は進んで近づいては来なかった。
□□□□□
「ベル」
「んっ……ふ、サカズキ……さん」
何だか凄く気持ちいい。ぎゅ、と後ろから好きな人に抱き締められる以上に、幸せな事なんてあるのだろうか。
もぞもぞと胸元の膨らみを揉まれてパジャマのボタンを外されそうになる。ちょっとだけ怖くて肩を竦めると、優しいトーンで耳元で囁かれる。
「できるとこまででええ。脱がせても構わんか?」
「うぅ……お、お手柔らかに……っ、や」
キス、気持ちいい。とろけそう。
もっとしたいなぁ。もっと……サカズキさんと、してみたい。触って?キスして。
「え」
妙にリアルな夢だった。目を開けてもまだ彼に抱き締められていたような感覚で、起き上がるとここは相変わらず彼の匂いが染み付いた布団の中なのだと知る。
「な……(何て夢を!私は!)」
自分の胸まで自分で揉んで……!
恥ずかしくなって穴があれば入りたい気持ちだ。別にこの部屋には私以外誰もいないんだけれども。
「(欲求不満すぎるでしょ。あぁもう!)」
スマホを見ればまだ夜中の1時。眠りについてから2時間しか経っていない。
というか、こんなふしだらな夢を見てしまう程私はサカズキさんの事を好いてしまっていたのか。ぼんやり思い染みていると、つい先日彼に言い放たれた言葉を思い出す。
『ええから言う通りにしてくれ。俺は…ストーカー犯と同じ穴のムジナになりとうないんじゃ』
「……」
あんな下衆と同じじゃないからこそ、私は近づきたかった。多分彼は、私がまた男の人を怖がらないように気遣ってくれているんだろう。それが痛いほど分かるから、私からその箍を外してあげたかった。
あなたなら、触れられても大丈夫。
何故かって?私もあなたに触れたいから。
面と向かってしまうと、そんな大事な言葉に限って上手く出てこない。ずるいかな。早く“友達”を止めようと言えばいいのに、思い切って言えない。せめてストーカーの犯人が捕まれば、何か変わる気もするけれど。
「(む、むずむずする……)」
ストーカーの件があってからストレスの極限状態で
正直それどころではなかった。逆にいえば1〜2週間ぐらい厭らしい気分にはなり得なかったと言ってもいい。
サカズキさんは流石に、寝たかな。
おずおずと、徐ろにうつ伏せになって寝巻きの裾を少し塊にしてそこに自分の秘部全体を押し当てる。当てる時に良い所に当たると、気持ちよくて自然と腰が動いてしまうのだ。
「(さ、サカズキさんのベッドで……こんな、えっちなこと……)」
隣の部屋とはいえ廊下を挟んで向こうにリビングがあり、彼はそこで布団を敷いて寝ている。距離的には遠いほうだから、布団とシーツが少し擦れる音も届くまい。しっかりと彼の布団を頭から被って、快楽を得るまま腰を動かした。
久しぶりの慰みはいつもより刺激が強く、腰が動かすたび喘ぎが漏れそうになって必死に口を塞ぐ。好きな彼のベッドでしているという、背徳感もあれば尚更。
「っ………」
週に2〜3回ぐらい。自分を慰める行為は正直嫌いじゃなくて、好きな漫画家さんや動画を視聴して楽しむ。自分の胸を揉んだり触ったり、陰核を刺激するまでしか私はできないが。
よく女性用の自慰グッズで、その、男の人の棒みたいなの挿れてるシーン見るけどあれは怖くてした事がない。そもそも自分の膣が何処にあるかまじまじと見ないし、異物を挿れてまで快楽を得たいわけでもなく。
こうやって擦り続けるだけでもオーガズムに達する事はできる。勿論、少し時間はかかるけれど。
「ふ………っ」
目を瞑って思い浮かべるはお風呂上がりのサカズキさん。暑がって上半身裸だった時があったんだけどあれがピークだった。凄いいい筋肉してて、引き締まっていて見惚れてしまった。ズボンはしっかり履いてらしたから下は想像でしかないけれど。
夢の中では私のお尻に当たってた気がした。隠す気もなかったのが妙にリアルで、もう一度あの夢の中に行きたい。それか。
あれ、現実にならないかな。耳元で囁かれたの、良い声すぎて脳が痺れた。あぁもう、サカズキさん。だめ、私えっちな事しか考えてない。
「(いくっ………)」
あぁ、気持ちいい。下腹部が凄くきゅんとする。少し荒い呼吸を整えつつ、火照った身体を冷やすため布団をはぐる。籠もった熱を放出し、少し冷静になって自分を振り返る。脳内で天使と悪魔が呟いた気がした。
彼の布団でするこんなふしだらな行為。彼は私に幻滅するだろうか?はしたない女だって責める?
いや彼はきっと責めないし幻滅もしないよ。だって多分、彼も……。
天使と悪魔。
(してェな)
(したいな)
- 13 -
*前次#
ページ: