献盃


6友達というもの


『友達(ダチ)ならええか』


告白なら今までも数えられる回数はされた事あったものの、その度に男性が苦手で無理だと断ると物珍しさと奇異な視線はよくあった。私にはその時の男性達の目つきが、折角捉えられそうになった餌を引っ込められて不満気になる狼みたいに見えて、それが嫌悪感でいっぱいだった。つまり、食べられる餌じゃないと知った時の目つきが怖いの。

だからこの人もどうせそうだと思っていた。女性として付き合えないと分かった途端、目つきが変わるだろうと思って丁重に断るも、真剣な目つきのままだったのが印象的だった。

異性として付き合って欲しいと堂々と告白されて、その後友達になりたいと言われたのは初めて。普通、女性として既に見てるのに、友達になんてなれるのだろうか。私もそうだが、サカズキさんも少し変わっている人だなと思う。

『ここで一緒に一杯飲むだけでもええ。あんた、この店ならマスターがおるんじゃけェ…すぐ助け求められろう?嫌じゃったら俺はもう、ここには来んけェ……』

たとえ男女の仲になりたいカモフラージュだったとしても、随分面倒な行程だと思うし、私が男だとしてもそんな女性より男に多少免疫のある女性にいく。

だからこそ、友達でもいいから交流したいと言われた時は、自分を少しでも人間として見てくれているような気がした。本人の言う通りこの店の中なら叔父さんがいるし、嫌だと思ったらすぐ引いてくれそうだなと思ったので、承諾した。

実際話してみると、何の面白味もないと言ったら失礼だけど、彼は淡々と物を喋る人。沈黙が流れる事もあるが、そんな時は私から質問すると普通に答えてくれる。ゆたりとした、落ち着いた時間。

『(横顔、フェイスライン綺麗だな……)』

見つめられると恥ずかしくて真正面から絶対見れないけど、彼がぼんやりと下のカウンターの方を見てる時なんかに、ふと盗み見してみる。最初は警察官らしくおっかない人っぽいと思っていたが、なかなか男前かもしれない。

1時間かそれを過ぎたら私の分のお代も含めてテーブルに置いて帰っていく。本来友達ならLimeぐらい交換してもいいのに、彼はそんな事一切聞いてこない。

ーーー何だか、むず痒い。
彼のお陰で溜まった小説の更新があるのに、別に華金が嫌だとか、憂鬱になる事はなかった。ただ、今日はどんなお話するのかなとか、そんな処。
スマホで執筆しながら待てばいいのに、そわそわしてしまう性分で上手く執筆に身が入らないのだ。女友達とはまた違う、何だかこの奇妙な感じは胸が擽ったくて……。落ち着かない。


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華金だけに会って話す、奇妙な友達関係が2〜3回続いた頃だった。今日の華金も、何とか仕事を定時内に切り上げさせて店に赴いた。トータル10人くらいのお客で席が埋まっていくが、一向に彼の姿が見当たらない。

「(あれ、今日はサカズキさん……)」

華金の20時にもなるのに、珍しく彼は現れなかった。先週はまた華金に来る、と言っていたのに。Limeも交換してはいないので、確かめようもない。
私のような事務方とは違って、彼は警察官だし、急な事件があれば対応しなければならないだろう。何か、拍子抜けしちゃったな。

「ベルちゃん、今日はサカさんいなくて寂しいんじゃない?」

「叔父さん……」

ここ最近サカズキさんが下段ではなくて上段で飲んでいるから、叔父さんには私と彼が一緒にいるのは承知の上。だからといって、好きなのかとか付き合ったのかとか突っ込んで聞いて来ない処が叔父さんの良いところ。
私の男性が苦手というのも、以前やんわり伝えた事はあったので色んな処で配慮してくれる。

「サカさんとは普通に話せるみたいだね?良かったじゃんか」

「あ……うん。でも、私と喋ってて楽しいのかな……」

正直な感想は一番、それだった。
淡々と喋る人だとは思うが、私と喋ってて笑ったり楽しそうにしてる処を見た事がない。相手から友達でもいいからと言われはしたが、もしかして飽きてきたと思われて今日来なかったりして……なんて。

ただの“友達”のはずなのに、何でこうも惑わされてしまうのだろう。別にいいじゃん、“友達”じゃなくなった方が金曜の小説の執筆も進むのに。

「楽しくない女と飲む程、男も暇じゃないよ。サカさん、なかなか感情に出さないタイプだから」

「……」

端から見ても、サカズキさんと私は男と女として見られている。叔父は特に意識もせずに言ったのだろうけれど、彼とは“友達”なの。と言っても信じてくれるだろうか。
今日はこれ以上待っても彼は来ないだろうし、筆も滑らかに動かない気がして叔父さんにお代を渡す。

「叔父さん、今日はもう帰るね」

「え、もういいの?気をつけなよ」

「うん、大丈夫」

前回の件で絡まれても大丈夫なように、最近は頑丈な黒い傘を常に持ち歩いてる。別にこれで変な輩を退治できると言うほど腕力に自信がある訳ではないが、ないよりマシかもしれないという私なりの防犯でもある。


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警察ってのは今も昔も男社会の業界だ。世間向けにはセクハラ・パワハラについては厳しく処分が下されるのだが、こと男同士でそれも上下関係になった途端箍が外れる奴の多いこと多いこと。女性職員には決して接待をさせる事は出来んのだから、必然的にキャバクラに場所が移動してしまう。

「お客さん、私タイプかも〜」

「ひっつくな、バカタレ」

やっと目の上のたん瘤のような上司が、気に入った嬢がいたらしくてアフターに誘って店から出て行った。残った部下の俺たちには何の餞別もなく、まぁ楽しんでいけと気分良くして後を去る。このケチな野郎め。

「相変わらず上は女子のクセが悪いのう」

「仕方ありゃせんじゃろ、出世の為じゃ。今時古いがのう」

よっぽどベルと静かに酒を呑んで話をする方がマシだ。今日はどうしても行けなかったが、彼女はいつも通り店に来ていただろうか。今度こそ会った時は連絡先を教えて貰おう。
自分にあしらわれた隣の嬢が臍を曲げて、テンセイの方に擦り寄る。女というものは仕事とは言え、こうも現金なものなのか。どうしても男慣れしていないあの彼女と比べてしまい、惚れ込んでしまったと思う。
満更でもなさそうに擦り寄ってきた女の顎を撫でるテンセイの指が、ふと目に入る。

「ま、折角じゃ。たまには風呂屋にでも行ったらどうじゃ」

「そこまで飢えとらん」

「ほぉ?あの姪御が頭から離れんのか」

ずばり言い当てられて反論できず閉口する。
女狂いをしとる訳でもあるまい、極めて健全な付き合いをしているというのに何処か後ろめたさを感じるのは何故か。

「じゃってん、ありゃ男嫌いなんじゃろ?やめとけやめとけ、生娘でも面倒じゃぞあぁいうタイプは」

「友達(ダチ)になったんじゃ。下品な言い方するな」

「ダチィ?」

心底意外すぎるといった反応。その歳で何を拗らせたんだとも言うような視線が痛いが、此方は此方で本気なのだ。それにとやかく言われる筋合いはない。
すると奴がわざわざ隣の女を退けて自分の真横に座る。ポンと肩を叩かれてまぁまぁと、宥められた。

「はぁ……友達(ダチ)言うてもよぉ、男と女じゃ所詮御伽噺よ。お前が女として見とる時点で破綻しとるぜその関係は」

「……」

ぐうの音も出ない正論。わかってる。
自分があわよくば……を何処か期待して彼女に近づいている事は。最初に男女の仲になりたいとぶっちゃけてる時点で、向こうも自分がどういうつもりで友達になりたいなんて言い出したかすらも分かっているだろう。

だが、嫌なら嫌だと拒めばいい。しかし彼女からは今のところ拒まれた事は一度もない。だから、また期待してしまう。
とはいえ、今のような飲み友達のままでは一生進展しない気がするので少し行動に移さないといけないのだろうが。

隣の女のように、すぐに靡いてくるような妖艶な猫なら誘うのは容易いものだが。ありゃ、動物に喩えるならストレスに弱い兎かもしれん、目を合わせるのも怖がるし。だが、そこが好きだから仕方あるまい。

「ねぇ、なぁに?彼女おるんの〜?」

「おらんわ。もうええぞ、わしらも帰るけェ」

「もう、酷い。この人〜」


友達というもの。
(ま、惚れさせてみりゃええじゃろ。そうじゃのォ、わしじゃったら1か月ありゃ十分じゃ)
(黙っちょれこの色男が)

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