10-夕飯


お兄さんと食事をしてから川原まで送ってもらい、その後も少しぶらぶら散歩をしてから万事屋に帰った。

「坂田さん、私バイトとかしようかな」

帰ってすぐお風呂に入った坂田さんは、居間で用意しておいた夕飯に手をつけている。
少し眠そうなのは疲れている証拠だろう。いや、普段から眠そうな顔してるなんて思ってないよ。あんまり。

「あー……?なんか欲しいもんでもあんのか?」
「そうじゃないけど。少しはお金稼がないとと思って。……やっぱり戸籍とかないと駄目かな」
「まあ……バイトぐれぇなら履歴書いらねェとこもあんじゃねえの。茶屋の知り合いとか紹介してやってもいいけどよ」
「あ、じゃあ……」
「いや、お前何か忘れてね?」
「……と言うと、もしかして」
「アレの事だよ」

血で怪我が治った不思議だね事件か。センスのない事件名である。
しかし、そんなに気にする事だろうか。誰かの怪我に偶然自分の怪我がフィットするなんて事は……ETか。

「それによ、一応俺の遠い親戚で通してっけど、もっと詳しい事とか聞かれたらどーすんだ」
「うーん……それは……どうしよう」

へらへら笑いながら言えば、坂田さんは「はい話終わりね」とばかりに目を瞑って食べる作業に戻った。
そんな軽く流していいのか。家計は……大丈夫なのか……。

「……生活費とか、大丈夫?」
「あ?別にお前一人くれェ増えたって大して変わりゃしねーよ。何も欲しがらねーし、あんま食わねェし」
「……そう?」
「家事やってくれてんのも助かるし。そっち疎かになるくれェなら、ちっとばかし切り詰めた方がマシだ」

確かに今の所貯金がヤバいだとか言われた事はない。
一応安売りの食材を狙ったりと、なるべく慎ましく生きようとはしているが。

「……ごめんね」
「いいっつの」
「ねえ、もし一緒に住みたい人とか出来たらちゃんと言ってね」
「……あァ?」
「もしそういう人が出来たりしたら、やっぱり……その、ちょっと……邪魔になっちゃうんじゃないか、な」

私の存在でいらぬ摩擦が生じ、同棲というステップに進めず別れましたなんて事になったら、申し訳なさで枕を濡らす羽目になる。ま、枕が可哀想なだけなんだからね!微妙すぎるツンデレ。
そのいつかの為にも、一人暮らし資金としてお金は貯めておいた方がいい気がするのだけど。
あ、でも履歴書とか、素性とか……ぐぬぬ……。

「んなもん、出来てから考えりゃいいだろーが。こんな相談だけして一生恋人出来なかったら相当みっともねェぞ」
「あ、ほんとだね」
「そのありえる、みてーな顔やめてくんない」
「シテナイヨ」

とりあえず丸く収まったような、何も進歩していないような。
まあ、確かに何か起こってから考えればいいのかもね。
坂田さんが曲がり角で食パンくわえた遅刻娘と激突するとか?ここは少女漫画の世界か。




*****

次から数か月飛びます。万事屋の二人(と一匹)とか出てきます。



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