07-料亭


連れて行かれた先は至って普通の料亭だった。
しかしその下手な事できねーぞと思わせられる雰囲気に、まさかかなりお高い所なんじゃと心配になる。
もう畳敷きの個室に入ってしまってからでなんだが、早くも帰りたい。
金あんまりねーんだよ!とハッキリ言えたならそれに越した事はないが、どうしても無難な言葉を選ぼうとしてしまう。

「あ、あの……あんまりお金、持ってないんです、けど……」

上目使いで顔色を窺いながら、恐る恐るそう言った。
「知るか」だの「言うのが遅い」なんて言われたらどうしよう。走って逃げるべき?

「んな心配しなくても、割り勘なんてケチ臭ぇ事言わねェよ」

少し呆れたように言われ、マジで!?と内心驚きの声を上げた。
いや、割り勘が普通なんじゃないの?付き合ってる訳でもないのに。却って怖い。

「で、でも……あ、有り難いですけど、申し訳ないし……その……」

何か怖いんで帰ってもいいですか?とテレパシーを送った。
頼むから受信してくれ。それでいて気を悪くしないで下さい。

「有り難いんなら食ってきゃいいじゃねェか」
「う、んん……」

肯定とも否定ともとれる声を漏らす。
言葉に甘えてしまえば食費も浮くし、どういう料理が出てくるんだろうという興味だってあるけれど。それでも、こんな会って間もない人に……これってやっぱりちょっと悪いんじゃ。

「真面目だねぇ。素直に喜んどきゃいいんだよ」

そう、なのか……?しかしここまであっさり流されると、ああだこうだ言うのが悪い気にもなってくる。開き直って満喫した方が相手の為でもあるのだろうか。

「じゃ、じゃあ……そうさせてもらいます」
「あァ」

申し訳なさ全開の表情でだがそう言った。
坂田さんにはお世話になりっぱなしで、家事しかしていないのに、こんな節約なんて言葉から程遠い場所で食事したいなんて言えないし、したいと思った事もなかった。
でもいざこうなってしまえば、好奇心が都合よく鎌首を擡げ出している。人生で一度くらいこういう体験してもいいよね。

「何にする」
「何があるのかさっぱり分からないです」

潔くそう言えば、お兄さんは小さく肩を震わせた。「だろうな」と愉快そうに呟く。
まあ、笑われるだろうなとは思ってたけど。……敢えて聞いたでしょ、今の。




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