水晶宮のお姫様
落ちてきた水晶(ヒト入り)で入り口は塞がれてしまったが、ガラスのように透明度の高いその水晶は
まるで中にいる女の子を守っているようだった
「(猿の亜人と咄嗟に思ったけど…これって…)」
動物の亜人の中には変な風習がある。
人間に見た目が近いやつの方が偉い。
猿はその中でも典型的な存在だった。
でも彼女には猿族特有の長い尾がない。
あえて切ってしまうやつも少なくはないが、なんかこう、
「動物の香りがしない」
グローブで少しだけ水晶を触ると、急に水晶は水のように溶け出し、ありえない速度で床に水分が広がった。
同時にどさっと言う音と共に中にいたヒトが、自分の足元に落ちてくる。
「ひいいっ…?!」
「……」
死んでるのか?生きてるのか、わからないまま彼女を見つめると、少しずつその目が開いていく。
「……おはようございます」
「……おはよう」
「あなたが、私を起こしてくれたの?」
「……そう、なるのかな」
「…そう、ならお礼を…」
桃色の髪の女の子の瞳は猿族とはまた違う瞳孔をしていた。やっぱり人間…
と考えていると
(ぐぅ〜〜)
「……お団子あるけど、たべる?」
「…イタダキマス」
びしゃびしゃに濡れた服は焚き火に当てて、僕のパーカーを貸してあげた。
彼女が着替えている間、僕は姉ちゃんからもらった団子を焚き火で炙りながら、いろんな考えが頭を駆け巡った。
僕は鉱物を取っていただけ
鉱物の中に人間が入っていた
しかも亜人じゃない
頭がぐるぐるしている中
「あの!」
「…は!はい!!」
振り返ると、僕のパーカーを着て火の前に座る彼女がいた。
「あなたも座りませんか」
「あ、うん…ありがとう」
焦げそうな団子を一つひっくり返し、僕もその場に座り込んだ。
「僕はナチラス。見ての通りうさぎの亜人で、鉱物堀りだよ。君は?」
「私は…ハ…ハリ…ハル…」
彼女は自分を閉じ込めていた水晶の残った小さな板に書いている文字を一生懸命読もうとしていた。
僕は文字はあまり読めないけど、ここに書いている文字はほとんど消え掛かっていた。
「自分の名前、覚えてないの?」
「……」
彼女はなんとも言えない顔をして、頷いた。
「名前がないと不便だから、ハルでいい?」
「ハル…春…はい!ありがとうナチラス。とっても気に入りました」
ニコニコと笑うハルを横目に、温めた団子を一つわたした。
「うん、熱いから気をつけて」
「ありがとうナチラ…ナチ、でいいですか?」
僕の顔をまっすぐに見て「ナチ」と読んだ彼女を見ると、頭に急に兄貴の声がした気がした。
『ナチ。フラメシュのこと、頼むな』
「っ…けほっ…ぉえっ…」
「え?!」
さっきまで美味しそうに食べていた団子が逆流したのかたまったのか、水晶の水と共に胃から吐き出されていく。
こりゃ今日は仕事ら上がりかな。
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