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一応は自分も人間であるという意識が残っているのか、ゴルベーザは手駒に人間を使うことを忌避している。
代わりにモンスターを仲間にして青き星の侵略を目論んでいるようだ。そして四つの属性を司る高位の魔物、四天王を筆頭に据えて雑魚を従えさせている。
私はゴルベーザの副官ということにして一通り顔合わせを済ませたが、これがまたなかなかの魔物たちだった。
アンデッドのスカルミリョーネは仲間を一気に量産できるし、水の性質を持つカイナッツォは便利な変身能力を持つ。
絶世の美女バルバリシアは空の魔物を統べており、四天王最強のルビカンテは一人で一国破壊する力を有している。
よく集まったものだと思ったら、ゴルベーザは彼らを倒して仲間にするという脳みそ筋肉なやり方で仲間にしたらしい。
もうちょっと頭を使おうか! 魔道士なんだからさ。
相手の精神を支配してしまえばもっと効率よく軍勢を手に入れられるのだが、どうもゴルベーザは支配のやり方がよく分からないらしい。
たぶんゼムスが阻んでいるのだろう。あんまり精神魔法が得意になってしまうと自分の支配が解かれかねないもんね。
ところで私は見た目には華奢で可憐で淑やかな美少女なので、四天王からの評判は頗る悪かったりする。
ただしバルバリシアだけは私に好意的な態度を示している。彼女は直属の配下を女ばかりで揃え、どうやらちょっとした男嫌いであるらしい。
ゴルベーザの仲間で女ならばそんなに文句はないようだ。あと、見た目がお気に召してもらえたようだ。まあなんだ正直、吝かではないよ?
そして好意的というほどではないもののカイナッツォも私を拒絶はしていない。というよりスルーされているのが近い。
この青い亀のごとき魔物は怠惰で横着で物臭で不精で、仲間が増えりゃ俺の仕事も減っていいやと思っている様子。とても気が合いそうだ。
ひねくれているのはスカルミリョーネ。彼はアンデッドである身にコンプレックスを抱えているらしく、自分を受け入れてくれたゴルベーザへの心酔っぷりが激しい。
いきなり出てきて何がゴルベーザ様の副官だ、というわけだ。つまり嫉妬。こんなものは大して問題にならない。私の方からも好意的に接し続ければいいだけだ。
そして面倒なのがルビカンテだった。彼はまず、ゴルベーザ様の副官を名乗るからには自分たちよりも強いことを証明しろと言ってきた。
副官と紹介したのはゴルベーザなので、私としてはもっと格下の(働かなくていい)ポジションでも一向に構わないんだけどな。
とにかく強さにこだわりがあるらしいルビカンテを納得させるために、私は彼と決闘を行うことになったのである。めんどくさー。
「塔の中で戦うのは無理だから外に出よっか」
「分かった。では余計な被害のないよう海上で戦おう」
これから人間を滅ぼそうって魔物が余計な被害を防ごうとか言っちゃう辺り、ルビカンテはとても真面目で紳士的だな。
確かに敵対する関係でも最低限の礼儀は必要だ。不躾な態度はこっちの品位を下げるからね。殺す時は殺す、必要のない時は殺さない。メリハリが大切なのだ。
とりあえず私たちはドラゴンを召喚して足場にし、海上で向き合った。
「こう見えても魔力だけはゴルベーザより上なんで、殺しちゃったらごめんね?」
「構わん。全力でかかってくるがいい」
「はーい」
細かい魔法は苦手なんだ。メテオはできるがファイアはできない、ホーリーは打てるがプロテスはかけられない。アレイズできてもケアルは発動しない。
そんな小規模魔法がとことん苦手な私が放った無詠唱の特大メテオは当たればルビカンテをも殺し得る。当たれば、な。
しかし私のメテオは呆然とする彼の背後に墜落し、高波を起こしつつも虚しく海中に没していった。
「……なるほど、メテオと見せかけて私を油断させ、津波を起こすという作戦……だったのか?」
「うん、まったく違うよ」
「やはり違うか」
「ええ違います」
ただのミスです。相変わらずメテオが当たらねー!
このね、狙うってことができないのが、最大の欠点なのね。私は月の民で一二を争う魔力を有している。しかし戦闘に強いわけではないのだ。
「くそ、どんどん行くぜ!」
アホみたいな魔力量を活かして次々とメテオを放つ。
百発中十発くらいはルビカンテに命中しそうになったのだけど、彼は凝縮した炎で的確に撃ち抜いて隕石を消し去った。
なにその命中精度? あとファイガを凝縮して威力を上げるとか、柔軟性ありすぎでしょ。メテオを消せる炎って。
私の魔力量も人外じみてる自覚はあるけど向こうはまさにひとでなしのモンスター。このまま打ち合ってても決着はつかない。
「だったら……」
トルネドを連発して周囲の波を巻き上げる。ルビカンテは即座に水を蒸発させたけれど、一瞬の隙をついて私は彼の背後に転移した。
「リオ……!?」
「今さら振り向いても遅ーい!」
リフレクをかけた自分自身に向かって渾身のホーリー。この至近距離なら外すわけもなく、聖なる光の爆発に吹っ飛ばされたルビカンテは海の中に落ちた。
「勝ったどー!」
勝鬨をあげつつ、見ていても浮いてこないので慌てて瀕死のルビカンテを引き揚げてゾットの塔に帰還した。
やっぱいくら強いっても火の魔物を海に沈めるのはまずいね。
ともあれ、四天王最強であるルビカンテを正々堂々? 決闘で倒したので私はゴルベーザの副官としてモンスターたちに認められたのだ。
私に負かされたルビカンテは怒るでも悔しがるでもなく私を認めて好意的な態度をとるようになった。どこまでも公平な男だな。
ゼムスの精神支配でなんとなく私を仲間として受け入れていただけのゴルベーザも、自分の意識で納得したようだった。
お陰さまでいろいろ仕事を頼まれるようになりました。……負けておけばよかった……そしてルビカンテを副官にすればよかった。
私は四天王の配下の雑魚でよかったのに。ああでも、全力で魔法をぶっぱなすのは久しぶりで楽しかったのは事実だ。
ゼムスの案にまるごと乗っかるのは癪だけど、青き星を侵略して新しい故郷を手に入れるってのも、それはそれでありなのかな。
正々堂々と戦って勝利し、奪い取るならそう悪い気はしない。ただゴルベーザの中のセオドールがどう思うかは……。
彼は私の同胞だけれど、彼の故郷はこの青き星なのだ。
ゴルベーザの中に辛うじて残る“セオドール”の記憶を見る限り、洗脳を解くとしても自分を取り戻すのがいいことなのか私には分からない。
他人に操られて悪の道を突き進むのと、自分の意思で実の弟を憎むのと、どっちがマシなのだろう?
私から見れば、四天王も雑魚モンスターたちもそれなりに気のいい仲間たちに思える。少なくとも、月の同胞よりは私にとって好ましい。
だってあいつらなんか、寝ていたい派の私を無理やり働かせるために青き星へ送り込みやがったのだからな。ムカつくわー。
もういっそ、身も心もゴルベーザになってしまってもいいのじゃないか。ゼムスの支配に従うにせよ逆らうにせよ、今そばにいる仲間は大事にすべきだ。
彼らを捨てなければきっと彼らも“ゴルベーザ”を捨てないだろうから。
なんにせよ私は、彼が自分の意思というものを取り戻す時に、この日々が虚ろにならないようにしたいと思う。
いずれ思い出すものが与えられた憎しみだけではないように。楽しく過ごした記憶があれば、今日という一日もまた彼の人生の一部分だ。