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 束ねた書類をバサバサとテーブルに叩きつけながら、億劫そうにリオが尋ねた。
「閉店時の曲どうしましょ」
 ……いや、閉館だろ。スーパーマーケットじゃあるまいし何だ閉店って。
 この女の言うことにいちいち突っ込んでいたらキリがないからさっさと先を考える。閉館BGMか。思いつきもしなかったな。というかどうでもよかった、そんなこと。
「……蛍の光でいい」
「ハァ。スーパーマーケットじゃないんだからさ」
 お前が言うな、と殴りたいのをぐっとこらえる。俺が怒りに任せて殴ればリオなんか潰れて終わりだ。まだ、死なれては困る。
 視線で痛みを与えられたらどんなにいいだろうか。睨まれても気にした様子はなく、うーんと唸って宙を見つめたあとリオは急に「あっ」と振り向いた。嫌な予感……。
「おさかな天国、これだ」
「ねーよ」
 だからスーパーマーケットじゃなくて水族館だって言ったのはお前だろ。この馬鹿にとっては魚屋かもしれないけど。
「ま、曲はあとで考えるとして……館長、閉館アナウンス録っといてよね」
「なんで俺が。お前がやれよ」
「あたし災害時用の緊急アナウンスやったもん」
 じゃあ尚更お前でいいだろ、どうせそっちは流す予定がないんだし、ついでに録音してしまえばよかったのに。そう無言で訴えると馬鹿にしきった顔で溜め息をつかれた。思わずホイッスルを発するもヤツは意に介さない。
「緊急時の誘導には客を落ち着ける女声がいいの。でも指示に従ってほしいとき、注意を引きたい強めのアナウンスは男声が向いてるの。閉館時間にいつまでも館内にいてほしくないでしょ? なら館長がアナウンスして、ああそろそろ帰らなきゃなぁって気持ちにさせなきゃ」
「…………」
 なんか聞いたことあるような話と聞いたことない話と織り混ぜられて無駄に説得力があるな。





――……お客様にお知らせいたします。間もなく閉館時刻です。お土産物のお求めはエントランスホール東側の売店で、お忘れものなどございませんよう、お気をつけてお帰りください。お客様のまたのお越しを従業員、動物一同、心からお待ちしております。本日は丑三ッ時水族館にお越しいただき誠にありがとうございました。



「わはははなにこれチョーウケる!!!」
「録り直せ! シャチにやらせろ!!」
「いいじゃんこれ使おうよ仏頂面の館長がくそ真面目にアナウンスしちゃってあーおもしろっ」
「絶対消す!!」
「スポンサーにも聞かせてやろう」
「殺すぞ」



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