水
物珍しいのか何なのか、リオは魔法が好きだ。とくに派手なやつが好きみたいで、精神や肉体内部に直接作用するような補助魔法には反応が薄いけど。
たまに身の程知らずのモンスターに襲われておれが応戦するときには、やけにキラキラした瞳で見守っている。何となく気分がよくなって連発してみたら、後ろで一人盛り上がりすぎて息切れしていることもあったぐらい、リオは魔法が好きだ。
でも、おれが魔力を消耗するのに遠慮してるんだろうか? あまり自分から「魔法を見せてほしい」なんて言うことはない。見たいよってオーラは隠さないものの、一応「べつに無理を言う気はありませんけどね」ってポーズを取ってんのが、妙に子供っぽい。
おれの魔力だって無尽蔵じゃないし、無駄打ちしたくはないが……ああも喜ばれるとつい、じゃあ次はもっとすごいヤツ? ってな具合にどんどん威力が上がってきてる。ありがたいのかもしれんが釈然としない。
魔法を見る機会ってのは意外と多い。モンスターにとってはそれこそ戦いに役立つだけの能力だが、リオと過ごしてると、実は魔法の効果をあらゆる意味で役立てられるのは人間の方なんじゃないかと思う。
「ん、音がするな。川かな?」
ちょっと期待のこもった顔で風上から聞こえてきたせせらぎに耳を澄ました。おれは内心苦々しい思いでいっぱいだ。もうすぐ水が尽きる頃だし、町はまだ遠い。だから川があるのを教えなかったのに、自力で見つけてしまった。
「寄って行こう。そろそろ水が欲しかったところだ」
「いやだ」
「ええっ? どうしたんだカイナッツォ、機嫌が悪いな」
「おれは行かない」
無計画な旅だから、行き当たりばったりで食料や水が尽きることも多い。その都度狩りやら盗賊の返り討ちやらで切り抜けてるけど、ごくごくたまに、「カイナッツォ、水くれないか」と言うこともある。
チャンスだったんだ。あんなところに川さえ無ければ!
「……じゃあ、水を汲んでくるからここで待って」
「いやだ。待たねぇ。あそこら辺はお化けが出るぞ、それでも行くのか?」
既に水筒を出しかけていたリオの手が止まった。
町に行く回数をなるたけ減らすために、川や滝壺を見つけたら必ず寄ってる。あいついわく泉や湖のような静かな場所は駄目らしい。リオの苦手なお化けは、やかましいところにはいないんだそうだ。そう言い張る根拠はよく分からないが。
「どうしてそんな……不安になるようなことを言うんだ!」
近くにある川は音からして小さなものだし、それも中流の穏やかな部分だ。あまりやかましいとは言えない。普段なら気にしない景色でも、意識して訪れたら背後の木々や叢、川の流れの中からでさえお化けは登場する。……リオの頭の中にだけ、だが。
「どこにだって危険はあるんだぞ。水がなくなったら、おれが魔法で集めてやる!」
だから行かなくてもいいんだと鼻を鳴らしてリオを見た。すごく間抜けな顔でおれを見ていた。
「……何だよ」
「お前……そうか。なんだ……ハハハ!」
なんで笑うんだよ。ムカつく。おれが不機嫌になるのに比例して、リオはますます笑顔になった。
「お前、川にヤキモチ焼いてたんだな」
「はあ!? そんなもんにどうやって妬くんだよっ!」
なんて言いつつ何故か焦った。川にヤキモチってどういうことだ。おれのはそんなんじゃない。ただ、水が必要ならおれがいるのに、無視して自分で何とかしようとするのが気に入らなかっただけだ。
魔法を使うと確かに疲れるが、リオの使う分を用意するぐらいならどうってことない。なのにあいつは無駄な遠慮なんかしていちいち水を汲みに行く。効率が悪いだろ。時間がもったいないだろ。おれに頼った方が早いのに! ってそれだけだ。
「そうか。悪かったな、妙な遠慮してしまって。……便利だなぁ、魔法って」
「羨ましいか? 頼りがいがあるだろ、おれ!」
リオは今まで見たことないような笑顔で「いいや」と首を振った。ちょっと傷ついた。
「かわいらしいの間違いだろ」
かわいらしいって、おれモンスターなのにそんな誉めてんだかなんだか分からんことで喜べるかよ。っていうかどうせならカッコイイの方がいい。そう言うとまた笑われた。
「分かったよ、これからはもう少しお前に頼らせてもらう」
「……おう!」
何となく不満は残るが、とりあえず思い通りになったはずだから意気揚々と返事した。また耐えられないって風に笑われた。……なんか、役に立ちたくなくなってきたのは何故だろう。