モンスターが殺した人間を食べるのは、嗜虐心を満たすためだろうか? カイナッツォと過ごす内にふとそんなことを考えるようになった。
 力の無い魔物は動物とほとんど変わらず、普通に狩りをして獲物を食すようだ。そういうもの達が人間を好むのは何も栄養分がどうのという理由ばかりではなく、殺す前段階として精神が満たされるから……らしい。ある程度には抵抗されなければ燃えないということだろうか。
 カイナッツォは食事を摂らない。それは何もこの子だけに限ったことではなく、位の高い魔物というのは大概がそうだ。魔力が尽きない限り生きていけるし、例え消耗しても休息さえとれば回復できる。
 生きているだけで生きられる。他の何物の力を借りずとも、正しく自分の力だけで立つことができるというわけだ。
 だったらそんなカイナッツォの保護者面している私は何なのかと思わなくもないが、実際にはこちらが守られていることも多いと自覚はしているからいいだろう。直接不満を垂れられたこともないし。

 肉の焼ける匂いというのはそれだけで食欲をそそるな。実はこの匂い、獲物を捕らない者にさえ効果があるのかもしれない。手持ちには私の好きな香草もあるのだが、同席する者が嫌がるので今日は控えている。
「なあー、まだできないのか?」
「まだ焼けてない」
「生でいいじゃねーか」
「いや、私も食べるんだから……」
 というか、そもそもこれは私の食事なんだが。生っぽいのは苦手なんだ。多少焦げ目がつくくらいの方が好きだな。まあそれはお前にとってどうでもいいんだろうけれど。
 今夜の食事は夕方捕った兎だ。どうせ私一人では少し多いからと冗談半分に「食べてみるか?」と聞いてみた。カイナッツォは意外にも頷いて、俄かに焦り始めたのは私の方だ。
 食べるのか。食べて大丈夫なのだろうか。必要性がないとはいえ、時たま人間を食べることだってあるのだから……兎だが、肉だし。大丈夫……だよな? モンスターではないし。いや、むしろモンスターの方がいいのだろうか。
 カイナッツォならば多少毒を持ってる生き物だって平気そうな気はするけれど、心配なものは心配だ。きっと「いらない」と即答すると思っていたのに。人よりも嗅覚が優れていることだし、私の隣で過ごす内に匂いを嗅いで興味がわいたのだろうか?
 肉を見つめる目は何となしに期待に満ちている。こうなってくると、うまく焼けるだろうかと別の不安も出てくるな。不意に村で飼っていた犬のことを思い出した。薄味の方がいいかもしれない。あまり濃いのは体に悪いから。

 次第に苛々してきた気配を隣に感じた頃、ようやく満足行く出来に焼き上がる。切り分けて差し出すと無言でじっと見つめ、何となく不満そうに私に訴えかけてきた。うーん、いかにも餌をやるような体勢が気に入らなかったのかもしれない。
「よし、おいで」
 少し重くなってきた甲羅を抱き上げ膝に乗せる。戸惑うカイナッツォの目の前に改めて肉を差し出した。幼子に食事を与えるような体勢が、何となく懐かしい気分になる。
「……これはこれでなんかムカつくんだが」
「そうか? 私はなかなか楽しいんだけどな」
「…………」
 ふて腐れつつもカイナッツォは肉に食いついた。そういえば誰かと一緒に食事するのは久しぶりだ。やっぱり、いいものだな。
「美味しいか?」
「それなりに。」
 でも……と続けようとしてそのまま黙り込んでしまった。まずいという反応ではないのだが、何か言いたそうだ。何なんだろう。
「もうちょっと食いたい」
「……実は美味しいんだろう、お前」
 仏頂面のまま口をもぐもぐさせる姿にほだされつつ、もうちょっともう少しと減っていく肉を見遣った。これはもしかすると私が食べる分など残らないんじゃないか。まあいいか。
 干し飯もあるし、いざとなったらそちらでも構わないさ。……べつに、久々の新鮮な肉だけど、カイナッツォが全部食べたっていいんだよ、うん。
「……リオは食わないのか?」
「食べたいだけ食べなさい」
 ほのかに嬉しそうにしたのを見て一気に幸せな気持ちになった。よし、干し飯の準備をしておこう。



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