水
モンスター同士は交流するのだろうか。残念ながら私には魔物の友人がいないため分からない。群れをなし同種とつるむものはいる。しかしカイナッツォがその類の魔物だとは思えない。
同じ種族の友人とか、欲しいだろうか? ここは保護者としてしっかり考慮せねばならないのではないか。このところずっとそれを考えていて、だから幼体の魔物、それも水属性のものを見つけた時は嬉しかった。
サハギンの子供だ。戦い慣れない旅人風情でも頑張れば倒せる、かなり程度の低いモンスターだ。……カイナッツォとは話が合わないかもしれないが、ともかく引き合わせてみることにした。
「ほらどうだ、可愛いだろう」
「どの辺がかわいいのか全然分かんねえよ」
半ば予想していたことだが、カイナッツォは気に入らないようだった。あまり他者とは関わりたくないのだろうか。だが魔物の知り合いもいなければ困ると思うんだ。
「あんた、それまだガキだろ。食われちまうぞ」
下等種を友人にどうかとすすめたのが気に入らないのかと思ったが、どうやら違うらしい。食われるとは、私がこのサハギンに、ということだろうか。まだ片手で軽々と持ち上げられるこれに?
「大丈夫だろう、こんなに小さいんだから」
「小さいから何でも食うんだよ。食っただけデカくなんだ。ガキの間にどれだけ他を殺せるかで全部決まっちまうんだ」
そんな幼い頃から力を試して生きるのか。親の保護もなしに……だからこそ、人間との圧倒的な差があるのかもしれないな。では私がこうしてカイナッツォの殺戮を減らそうとしているのは、良くないことなのか。
「……じゃあ、食べるか?」
「どっちをだよ」
「どっちをって……」
このサハギンか、……私か?
「いや、私は食べられたくないが、お前食べたいのか?」
「べつに。あんまり美味くなさそう」
それはそれで悲しい気もするが、美味しそうだったらとっくに食われていたのかと思うと複雑な気分だ。
話の雲行きが怪しくなってきたのを察したか、サハギンがビチビチと身をよじり始めた。まあ、カイナッツォが食べないと言うなら意味もない。握った手を離すと幼いモンスターは飛び上がり、さっと開いたカイナッツォの口の中へ消えた。ああ……足がはみ出ている……。
「美味しいか」
「まあまあ」
新鮮だからいいな。魚なんだろうか。肉っぽいのか。でも私は食べたくないなぁ。それが普通の魚だったらよかったが。最近食べてないな。今夜は釣りでもしてみようか。減退したかと思えばまた盛り返してきた食欲を無視して、咀嚼を終えたカイナッツォが私を見上げて言い放った。
「リオもモンスター食ったらいいのに。そしたら手間が減るし金もいらないぞ」
いやそれはさすがに遠慮する。と即答できなかった自分に戸惑った。
「でも、それしか糧がなくなりそうだ」
モンスターを食べる。正直言ってそれ自体にはべつに抵抗はないけれど、食べなくて済むならその方がいいなと思う。
カイナッツォが魔物だから? 気が引ける? そういう気持ちもなくはない、かもしれない。でも惰性で生きるのが嫌だから。それが楽だからと言ってモンスターを殺して食べようなんて。
人間ならば人間の食事を。そのスタイルは崩したくないんだ。努力すれば肉も魚も手に入るのだし、余程切羽詰まっているのでなければ、私は魔物は食べない。くだらないけど、それが尊厳かとも思うんだ。
いや、まあ魔物を殺して得た金で、買った食料だったりもするが。人間の矜持なんてものは本当に無意味かもしれないな。
「モンスターだって人間を食うんだから、気にしなくていいと思うけどな」
「うん……ちょっと違うような……」
だってそれじゃあ、カイナッツォと共に過ごす私が、魔物を平気で食べるようになってしまったら。まず面倒臭くなってまともな食事なんかしなくなるだろう? 次に待ってるのは今カイナッツォがしたことだ。
だからその、つまり、共食い。サハギンとでは共食いにはならないかもしれんが、私が人間を食って平気な顔してたらと思うとゾッとするな。
「……やっぱり私は、魔物は食べないよ」
「リオは変なとこにこだわるよなぁ」
影響力はお前の方がずっと強いんだぞ。私が人間であると忘れそうだ。カイナッツォが人間だろうと魔物だろうと気にせず口にするならば、私は意地でも真っ当な食事にこだわるよ。
「だって、ちょっと美味しそうかなと思ってしまったんだ……」
じゃあ食えよと誘惑する視線を感じたので、あらぬ方を見てやり過ごすことにする。