あー面倒臭い。生きていくのは本当に面倒臭い。屋敷にいれば作り置きもできたしこんな手間もなかったのになぁ。どうして毎日なにかしら腹に納めなけりゃ生きられないんだ人間。やめたいよ人間やめたいよ。
 空腹感が高まりすぎて限界だった。鍋から漂ってくる良い匂いのせいで軽く死にたい。何故もっと早く煮えないのか、もう生でいいか。
 ふと気づくと隣で大人しく待っていたスカルミリョーネがじっとこちらを観察していた。彼に料理を教えようかな? 煮るなり焼くなりだけでも覚えてくれれば僕も楽だ。食事って概念を理解できるかどうか疑問だが。
「何か用かな」
「え……い、いえ」
「なんだ? じっと見ちゃって……ホレた?」
 ニヤリと笑って尋ねてみる。スカルミリョーネは不思議そうに首を傾げていた。ああ不発だ。慌てるとか怒るとか、何かしら突っ込んでくれないと虚しいんだけどな。まだ難しいか。
「いいんだ、何でもないよ。深く考えないように」
 情操教育が必要だなぁ。まだまだ感情が薄すぎる。今夜にでも素っ裸で誘惑してみようか? いやそれもちょっと方向性が違うか。うーん。

「……何を作っているのですか?」
「僕の昼食」
 火を使うせいだろう、興味を示しつつも不用意に近づいてはこない。あんまりあからさまな弱点があってもなぁ。アンデッドだから浄化力の強い属性を嫌うのは仕方ないが、今のままじゃすぐに倒されてしまう。何か火を避けられる防具でも作ってやろうか。

「ねえ、狩りだけじゃなく調理もやってみる気はないか?」
「私が……リオ様の食事を、作るんですか」
「嫌でなければ」
 毎日繰り返していれば少しずつでも慣れるかもしれない。それに、できそうなことなら何でもしておいた方がいいだろう。
「でも、私の触れた物は不浄です」
「それくらいでは害にならないから平気だよ」
 以前、腐って液状化した肉を食べても何ともなかったからなぁ。あの時は自分の丈夫さにもさすがに引いたな。ま、職業柄ありがたいけど。
 スカルミリョーネはやっぱり不服そうだ。毎日の食事を見つめているから、なんだかんだで面倒なんだろうか。それならそれで嬉しいことだが。
「……私は、人間の食べ物について、まだよく分かりません。しっかり学ぶまでリオ様の口に入れるものは作れません」
 いや、真面目だな。一体誰に似たんだろう? 創造主でないのだけは確かだ。
 自分でもまともなものなんて作ってないのにな。ちぎるか切るかしたものを煮たり焼いたりするだけだ。あまり面倒臭いと生肉でも食べるし。
「お腹が膨れればそれでいいんだ」
「しかし、あなたはただでさえ人間の基準から外れているのだから、これ以上てきとうな生活をすべきではないと思います」
「……口が達者になったね」
「落ち込んでも駄目です」

 このところ食事時になるとやたらに見つめられるなって思ってたけど、もしかしてスカルミリョーネなりに学習していたんだろうか。うん、保護者としての立場が逆転しつつあるな。
「じゃあ一緒に作るのはどうだろう?」
「……一緒に」
「僕が調理する。君がそれを手伝う。なるべく手間のかかるものを作るよ」
 そしてどうせならスカルミリョーネも食べればいい。今から消化器官を作るのは無理だとしても栄養を直接魔力に変換できるようにして……まあ魔物を主に食べればできなくもないだろう。
「そんなに面倒なものですか?」
「ん? ああいや、面倒だからってだけで作らせたいんじゃないけど」
「……リオ様が喜ばれるなら、努力します」
 可愛いこと言うなぁ全く。それならこちらも真面目に生活に励もうか。人らしい暮らしを知っておくのもスカルミリョーネのためになるだろうし。どんな形になるにせよ、死んだ後の僕には何も助けられないからな。

「美味しいものを食べて明日の心配をせず好きな人と過ごせることかな」
「何が、ですか」
「人間の一般的な幸せ」
「……リオ様は一般的なのですか?」
 そういう余計なことだけツッコミ入れてくれるんだね。まあいいけど。死体ばかり相手に人生やり過ごしてる僕は一般的ではないだろう。でも生ある全ての存在が欲しいものに、そうそう大きな違いはない。
「美味しいものは労力さえあれば問題ない」
 モンスター狩りはスカルミリョーネに任せるとして、面倒臭さを厭わなければギルがなくても手に入る。
「明日の心配も特にないな」
 なんせ失うものがないのが我々の幸福だから。いやあ無欲でよかったな本当に。だけど少しくらいの不安はあった方がいいんじゃないか、生きる意欲のためにも。少し酷だがそのうち「失う」ってことを教えなければ。
「……問題は好きな人か」
 好きだの嫌いだの、そんな感情は生まれるんだろうか。こればかりは時が経つまで分からないな。自分で実験台になれればよかったんだけど、いつの間にか主従関係が定着してしまったもんなぁ。
「それは、なくてはならないものですか」
「無くても生きていけるけども有った方が断然いいものだよ。幸せって難しいね」
「……では私は幸せです。美味しいものをリオ様が食べ、明日の心配はなく、あなたがいるので」
 よし決めたやっぱり今夜誘惑しよう。



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