ずっと前から「お前は水の魔物だ」と言われてたが、実感がなかった。氷の魔法なんかは得意だしそれらしき特性もあるけど、他のモンスター達と比べたこともないからよく分からなかった。ただリオが、魔物の質を見極める力があるらしくて、水だと言うからそうなのかと納得していただけだ。
 確かに水の中にいるのは好きだ。気持ちが良いし何となく落ち着く。温すぎるのや冷たすぎるのは苦手だが、今日の泉は丁度いいな。
 水底を歩いていたらリオの足があった。そういえば水浴び中なんだった。嗅ぎ慣れた匂いが消えるこの瞬間はあんまり好きじゃない。どうせすぐにまた馴染んでくるけど。
 ついでに服も洗ってるらしいリオは、おれが足元にいるのに気づいていない。ちょっと驚かせようと思って足を掴んでみた。
「ギャーー!!!」
 盛大にひっくり返った。こっちがビックリする。水飛沫をあげて水面下に沈んで、バタバタと水中で暴れたと思ったら忙しく起き上がり、今度はわざと潜っておれの体を水中から引き上げた。縦に持たれると居心地悪いから止めて欲しいんだけどな。
「カイナッツォ〜……驚かせるな! モンスターかと思っただろう!!」
「……いや、モンスターだろ」
「そうだった。ってそういうことじゃない、何かこう怪奇現象的なものかと思うじゃないか」
 それにしたって驚きすぎだと思うが。おれがここにいるのは分かってるくせに。ああでも、自分で岩にぶつかった時も飛び上がって驚いてたっけ? 周りで音がしただけでもびくついてた。普段は図太いぐらいの神経なのに……。

「あんた意外と小心者だな」
「だって裸のときにお化けが出たら怖いだろう」
「お化け?」
 あっ、と言った瞬間リオの顔が真っ赤になった。お化けっていうのはモンスターとは違うのか。よく分からないけどそれが怖いのは恥ずかしいことらしい。
「……人間の恐怖心とは様々な化け物を作り出すんだ。何もいないはずの場所に何かがいるような気がしたり、誰かに見られている気がしたり、最大の敵は自分の心だと理性では分かっていても怖いという気持ちが抑えられない。なんと言ってもあいつらには、剣も魔法も効かないんだ!」
 なんかすごい長い言い訳だけどつまり静かなとこにいると妄想が行き過ぎて怖くなるのか。夜に一人で寝られないのも、もしかしたらそのせいか?
「……でも本当は何もいないんだろ」
「いるような気がするんだよ! それが怖いんだ!」
 おれはむしろお前の方が怖いよ。とりあえず怖いのは分かったからぎゅうぎゅう抱きしめるのをやめてくれ。窒息する。
「ううー、もうあがる! さっきから変な感じがしてたんだ。そしたら案の定」
「いや、驚かせたのおれだし、お化けじゃないぞ」
「こんな静謐な場所は駄目だ。想像力がたくましくなりすぎて手に負えない!」
 叫びながらざばざばと泉を渡り、おれを掴んだまま陸にあがってしまった。もう少し浸かっていたかったのに。

 おれを地面に降ろすと、そわそわ辺りを見回しながら手早く体を拭いて、引っつかんだ着替えを頭から被ってまた悲鳴をあげた。
「アアァーーー!!」
「な、なんだよ今度は」
 だからこっちのが怖いって。リオは被ったばかりの服をまた脱いで、バサバサと勢いよく振り回し始めた。ついに幻覚が見えはじめたんだろうか。
「……虫だ」
「ふーん」
「えっ、なんだその冷たい目は」
 そんなことよりさっき洗った服がまだ泉に浮かんでる。おれが取りに行った方がいいんだろうな、もう泉に入る気力なさそうだし。そうして体の向きを変えて水に入ろうとしたら、尻尾を思い切り掴んで引き戻された。痛い。
「何だよ! 服取りに行くんだって!」
「駄目だ、危ない!」
「何もいないだろ!?」
「もういいよ服は諦めて早くここを離れよう! やっぱり川だな。川がいい。川ならお化けが出てもそのまま流されて行くからな!」
 あんたの思考回路はさっぱり理解できない。けど突っ込むのに疲れてきたから何も言わないぞ。尻尾を離してくれないから、魔力で水を引き寄せて服を近づけることにした。まっすぐこっちに向かって流れてくる自分の服、それを見たリオは。
「うわあああなんか来たー!」
「…………」
 どうしよう、ちょっと楽しくなってきたかもしれない。



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