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 家の隅に埃が目立つようになってきたから掃除をしよう。と思っていた時にちょうどよくラバキンさんが来たので手伝ってもらうことにした。家具を動かしての大掃除となると男手があるのはとても助かる。
「前から思ってたけどよ、リオは本が好きなのか?」
「いえ別に……読書は暇潰しにいいので増えてしまったんです」
「へぇ〜。でも単なる暇潰しにしちゃ立派な棚だなあ」
 この家には確かに本棚が多い。居間に二台、もっと大きいのが寝室に二台、廊下にも小さなものが一台ある。すべてにぎっしり本が詰まっていた。両親が生きていた頃はなかったものだ。
 一人暮らしは暇だった。協会員として奉仕につとめている間はともかく家に帰れば話す相手もいない。家族と他愛のない会話を交わした時間の代わりに、何をすればいいのかずっと分からなかった。
 有り余る静寂をやり過ごすために本を買い足し続けていたらこんなことになってしまった。おかげで掃除をするのも一苦労だ。
「ま、働き甲斐があるのは嬉しいね。いっちょやるか!」
 強制的に働かされていた期間が長いとはいえ体を動かす仕事そのものは元々好きだったらしく、ラバキンさんは腕捲りをしてやけにはりきっていた。ある程度の本を取り出して軽くなった棚を、鼻歌など歌いながら私の指示通りに運んでくれる。
 鼻歌……詞はないけれど節回しが調子よく、声が通って耳に心地好い。芸人のように優れた技巧はないし、聞き惚れるような美声でもないけれど、体の底から元気が湧いてくる力強さを持っていた。
 聞き覚えのあるようなメロディはおそらく鉱山夫の唄なのだろう。父さんも体を動かすときによく歌っていた。彼と同じように、歌詞はなかった。
『鉱山唄はね、仕事の辛さや自分の境遇を嘆く詞が多いんだよ。だから帰ってきたとき詞は歌わないんだ。だって家にいるとき、俺はとっても幸せだからね……――』
 ここは今でも自分の家だとラバキンさんは言った。私がいてもいいのだそうだ。かつての父さんと同じように、ここを帰る場所だと思ってくれている。そのことが私の胸にあたたかな気持ちをもたらした。



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