08
窓からラバキンさんの姿が見えた。うちに向かって通りをのんびりと歩いている。手を振ってみたけど気づいていないようだった。
数分で玄関に着くだろう。お茶の準備をしてテーブルを整え、ノックの音とほとんど同時にドアを開けて出迎える。案の定、彼はタイミングよく顔を覗かせる私にとてもビックリしていた。
「うおっ、なんで来るのが分かったんだ?」
「窓から見えたので。手も振ったんですけどね」
「そ、そうか。悪い、全然気づかなかった」
「別にいいですよ。今までにも何度かありましたから」
「マジかよ!?」
自分で気づいてないようだけどラバキンさんはけっこう視力が弱い。父さんも昔から目が悪くて、離れたところから手を振る私に気づかなかった。小さいときは私もよく怒ったものだけれど……。
無意識に遠くを見ようとして薄目がちになりそれで余計に目を悪くする。日がな一日暗いところに籠って働く鉱山労働者にはありがちなのかもしれない。
今しがた歩いてきた通りを振り返り、自分の手のひらと見比べる。ラバキンさんはその細い目をさらに細めて悲しそうに溜め息をついた。
「手元はよく見えるんだけどなあ」
だからまだ老眼じゃないんだと聞いてもないのに弁解するのが面白くて、ついからかってしまう。
「近くは見えるんですか。本当かな。私の顔は見えてます?」
両肩に手をかけて背伸びをし、鼻が触れ合いそうなほど顔を近づける。ギョッとした彼は慌てて横を向いた。
「い、い、いや、ちょっ、近すぎて見えねぇな」
「それは老眼じゃないですか」
「違います!」
「なぜ敬語」
遠すぎて見えないなら近づけばいいだけのこと。彼はまだ手の届くところにいるのだから。