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 いつもなら武装を解いて普段着で来るラバキンさんが、珍しく戦闘を終えてそのままの物騒な出で立ちだった。今日はトビラからではなく長旅帰りにグレイリッジに寄ったのだという。彼が武器を持っているせいか、なんとなく落ち着かない。
 交易旅行だったそうだ。彼らは資金繰りのために、クラグバークとかナイネニスとか地名を聞いても私にはどこだかよく分からない遠方まで買い出しに行く。
 一緒に西方へ行ったメンバーの一部はアストラシア王国からトビラで城に帰り、別行動のラバキンさんたちはテハの村を通って徒歩で戻ってきた。自給率の高いグレイリッジではあまり高額取引が行われないのでここは通りすぎ、シトロン城で合流したあとまた別の人たちがトビラでサルサビル方面へ向かう。
 クライス団には設立時からランブル族がいるらしいけれど、反乱軍というよりは行商人の集団みたいだ、なんて思ってしまう。
「クラグバークは絹が安いんだ。フューリーロアの手でどうやって織ってんのかと思うけどよ」
「あの人間と獣の中間みたいな人たちですか。きっとキバカイコなんか楽に倒せるんでしょうね」
「ああそうか! だから絹糸が余ってんのかもな」
 グレイリッジは鉱石が有名な町だけど、実は鉱山奥地に棲息するキバカイコから採れる絹も昔ながらの名産だ。ただやつらはなかなかの強敵なので供給が安定せず、他の土地からの需要が急増すると絹の値段が高騰する。
「絹ならこっちまで持って帰ればよかったのに。今すごく高いんですよ」
「なにぃ? そりゃ失敗だ……俺たちがナイネニスを出るとき、まだそんな情報入ってなかったぜ」
 まあ協会の敵であるクライス団の懐事情なんて私には関係ない。それよりも気になるのはラバキンさんの荷物から放たれている異臭の方だ。
「で、代わりに何を持ってきたんですか」
「ああやっぱ臭いか? 俺は途中から鼻が慣れて分からなくなっちまったよ」
「薬っぽい……甘ったるいのに青臭いような、変わった匂いですね」
 はっきり言ってかなりの不快感だ。わざわざ見せてくれなくていいのにラバキンさんはカバンを開けて中身を取り出した。
「樹液に苔、生薬がいろいろ。匂いのきついのはこの辺だな。で、こっちが虫の甲殻……」
「あっ、もうお帰りですかまた来てくださいねさようなら」
「おっ、おいリオ!?」
 大荷物を抱えたままのラバキンさんをぐいぐいと家の外まで押し出してドアを閉める。あの物体、何かと思ってたら虫の死骸だったなんて。あんなにも巨大な。
 ドア越しに聞こえる「追い出すことないだろ」と怒る声に怒鳴り返した。
「虫はうちに持ち込み禁止です! 匂いが消えるまで帰ってこないでくださいね!」
「お、おいリオ……」
 落ち着かなかったのは匂いのせいだ。いつもの彼は汗と埃と石の匂い、グレイリッジの匂いがしてたんだもの。



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