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 夕暮れ時、洗濯物を取り入れるリオを手伝っていると急に風が強くなってきた。顔にかかって鬱陶しいらしく紐でゆるめに縛った髪がふわふわと揺れる。犬の尻尾か何かみたいだな。
「わっ! な、何ですか?」
「ん? ……うお、すまん、無意識だった!」
 自分でも気づかずにリオの髪を掴んでいた。慌てて離したが指に残った感触がどうも気にかかる。リオも頻りに髪を撫でつけながら、なんでか顔を赤らめていた。
 妙な空気になっちまったぜ。
「か、風が強いな今日は」
「……え? あ、はい、そうですね。城に戻るとき、気をつけてくださいね」
「ああ、ありがとな」
「いえ」
 ……妙な空気になっちまった! 頭を撫でたりなんてしょっちゅうで、そのたびリオはあんまり子供扱いするなと怒るのに、今日に限ってどうしたっていうんだ。
 精練する前の生糸みたいな、滑らかでしっかりした髪を、やけに意識してしまう。夕陽に染まって金色に光っていた。落ち着き払ったリオが大人びて見えるのはいつものことだが、今日はなぜだか子供のように無防備な彼女が別人みたいに思えてならない。
 それっきり二人とも無言で洗濯籠を部屋に運び入れ、いつも通りに一休みする気にもなれず俺はそのまま踵を返した。
「じゃあ、城に戻るぜ。肌寒くなってきたから気をつけろよ」
「はい。ラバキンさんも……」
 自分の娘ってのを持ったことがないから、どうしてどぎまぎしちまうのかよく分からなかった。べつに焦るようなことなんか何もなかったのに。普段は意識しないはずの、リオが女の子だという事実が、やけに衝撃的に感じたんだ。



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