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グレイリッジ鉱山の地下深くは危険地帯で、昔は採掘作業も困難だった。クライス団に加わり、不思議な力を得たお陰でその頃の恐怖は薄れつつある。
徹底的に掘り尽くされた鉱山内は補強作業がすっかり終わっていて今じゃ落盤事故なんてほとんどないし、鉱夫にとって死の代名詞だったキバカイコガも星を宿す者が数人で挑めばちょっと強いだけの雑魚だ。
「もっと鍛えたら俺一人でも倒せるかもな」
そして絹糸の供給が安定すれば鉱山の閉鎖以来めっきり寂れてしまったグレイリッジにもまた潤いが与えられるだろう。やつらの幼虫は地底に埋もれた鉱石類を溜め込む習性があるから、そっちも金になる。
だがリオは、俺が怪我して帰ってきたのが気に入らないらしい。
「こんな深手を負ってまで挑戦することとは思えません」
「深手って、スパッと切っちまったから血は派手に出たけど掠り傷だぞ。もう血も止まってる。そんな怒るなよ」
「怒ってません」
「機嫌悪いじゃねぇか」
「悪くないです」
やれやれ。こんなことなら他のやつらと一緒に宿屋へ行くべきだったか。せっかく自宅が近いんだからとケチったせいでリオに無駄な心配をかけちまった。
鉱山は今まで単なるトビラへの通り道だったが、下層のモンスターを狩れるようになったんで町に入る前に戦闘が行われるようになった。彼女も物々しい俺の姿を見る機会が急に増えて不安なんだろう。
「心配すんなって! これくらいの傷なら星の印で治せるからよ」
「星の印?」
「説明しにくいな。一応は魔道ってやつなんだろうが俺のガラじゃねぇし、まあ要は気合いみてぇなもんだ」
まだ不思議そうなリオに向かって傷だらけの腕を差し出し、精神を集中する。小さな傷は胆力でみるみるうちに塞がった。
「えー、なんか気持ち悪い」
「き、気持ち悪いって何だよ」
書に触れて得られるこの力は一なる王に滅ぼされた異世界の“同じ星を宿す者”が持っていた能力らしい。この馴染みやすさ、別人であっても確かに自分に似た名残を感じる。
「なんだか自然を冒涜してる気がします」
「分からんでもないが、便利なんだぜ? お前だって使えりゃ使うだろ」
「使うでしょうね。気持ち悪いなぁって思いながら」
「それは思うのか」
リオは塞がった傷のあとを疑わしげに見つめていた。確かに得体の知れない能力ではあるが、それで大事な物が守れるなら充分じゃないか。