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 三日寝てない、ラバキンさんは事も無げにそう言った。
 旅の日程を見誤って帰り道で物資が足りなくなり、強行軍でグレイリッジまで来たものの力尽きたクライス団の面々はここで一泊することにしたらしい。みんな今頃は爆睡してるだろうと、ラバキンさんは明るく言った。
 倒れるように部屋へ転がり込んだ一行の代わりに宿泊手続きを済ませて彼はその足で我が家に帰ってきた。自分だって三日も寝ていないくせに。
「ラバキンさんも休んでくださいよ」
「おう、寝るけどよ。その前にリオの顔を見ときたくてな」
「そんな場合じゃないでしょ!」
 少し寝るのが遅くなったというくらいならまだしも寝ていないなんてあり得ない、あってはならないことだ。不規則な睡眠は健康に悪いし、無秩序な生活は心を荒らすのだ。
「平気だって。寝ずに働くのは慣れてっからよぉ」
「慣れないでください」
 異世界での話だろう。過酷な労働を強制されていたとは言うけど睡眠まで削られていたなんて。それが当たり前の暮らしになっていたなんて。
 慣れれば無茶をしてもいいなんてことは絶対にない。無自覚の疲労は、思わぬ事故を招くもの。
 いまいち危機意識が薄くにこにこして私を見ているラバキンさんの手を引っ張り寝室に駆け込んだ。ベッドに突き飛ばして有無を言わさず掛け布団を頭まで被せる。
「ぶはっ! もうちょっと優しくしてくれ!」
「寝てください」
「……は、はい」
 この世界で、この家で、ラバキンさんが睡眠不足なんて私が許さない。布団をかぶりつつ性懲りもなく「まだ寝る感じじゃないのに」なんて文句を言う彼がちゃんと寝るまで見張ることにした。
「……そんなに睨まれてちゃ眠りにくいんだが」
「頑張ってください」
「お、おぉ。頑張って寝るのか……」
 そしてお互いの間に妙な緊張感が走って眠れず、私は生まれて初めて夜更かしをしてしまったのだった。



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