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 樹海方面から大荷物を抱えて帰ってくるとリオが警戒するようになってしまった。気持ちは分かるが、俺だってべつに好きでこんなもの持ち歩いてるわけじゃないんだ。だからカバンを見るなり泣きそうな顔をするのはやめてくれ!
「ま、また虫ですか」
「ファラモンの向こうの樹海で大量発生してたんでな、」
「大量!?」
 あ、それは言わなくてよかったか……。ものすごい勢いで後退っていくリオにこちらも慌てて荷物を部屋の隅へ退ける。カバンにしまいこんでいるとはいえ不気味な布の凹凸からそれが何かは明らかだった。ちょっと脚が出てるしな。
「虫は俺たちで狩ったから大丈夫だぜ。ただ甲殻の価格が暴落しちまうってんで引き取るはめになった」
「燃やしちゃえばいいのに」
「そりゃもったいねぇだろ」
 本人は意地になって認めたがらないがリオは虫が苦手らしい。といってもキバカイコみたいなのは平気で、甲虫やカニなんかの殻がダメなんだそうだ。グレイリッジじゃあまり見かけないもんだから不慣れを不安に感じるんだろう。
「まさかグレイリッジで売るんじゃないですよね」
「ここじゃあ高く売れねぇからなあ。城に持って帰るよ」
 帰り道でそのまま売ってりゃよかったんだが、今回は光る玉を買ってクラグバーグに向かったからファラモンには寄らなかったんだ。そっちに行く用のあるやつがその時ついでに売ってくるだろう。
 俺たちクライス団の敵は協会だ。しかし協会員と直接戦うことなんて滅多にない。戦闘で相手にするのはほとんどが野生のモンスターで、カバンはやつらから剥ぎ取った戦利品でいっぱいだ。
「これでもマシな方だぜ? 食い物は気を使うし、鉱石は重いし」
 虫の甲殻よりずっと生々しい毛皮系なんて最悪だ。剥いだばかりの皮を持ってるときはさすがに家に帰らないようにしてるけどよ。
「でもカバンの中に虫の死体って、やっぱり嫌……大体なにに使うんですかそんなもの」
「武器とか防具とかいろいろだな。動物の骨やら皮と似たようなもんさ」
 その大きさゆえにあまり加工しなくてもそのままビートルレザーとして使える巨大虫の甲殻は軽くて丈夫で匂いも弱くて、儲け自体はそこそこ程度だが交易の品として扱いやすい人気商品だ。今じゃシトロン城でも虫の甲殻を使った鎧を売っている。
 と、言ったところでリオの顔が引き攣った。
「い、いや、俺は使ってないぞ? 安心してくれ」
「……」
「だから泣きそうな顔をすんなってぇ!」
 完全に引いているリオに参ってしまう。今度は土産に何か綺麗なものでも買ってくるとすっか。



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