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グレイリッジから協会が撤退するとリオは仕事を奪われたような状態だったが、今はローガンの宿屋で雇ってもらえたようだ。協会にいなくなってほしい俺としちゃあこれで小さな後ろめたさもなくなり喜ばしい限りだった。
店主であるローガンと娘のエリンちゃんがクライス団に入ってしまったので宿の方も人手不足で困っていた。協会が去って以来、町を訪れる人間の数も少しずつ盛り返してるからリオが来てくれて向こうも助かっているらしい。
元々身内でこじんまりとやってた宿だ、ローガンとしては自分のいない間に知らないやつを雇い入れるのも嫌だったんだろう。その点リオならヤトの娘ってことで素性もはっきりしてるからな。
昼間うちに帰ってもリオがいないのは寂しいが、まあそりゃ俺の我が儘ってもんだ。休みの日はこうして一緒に出かけることができるんだから、それはそれで嬉しいことだった。
「んじゃ、あとは何を買うんだ?」
「発注はこれで終わりです。あとはうちの買い物もついでに済ませたいなぁ、と……石鹸や油を買うので重くなりますが」
「おう。構わねぇぜ」
むしろもっとコキ使ってもらっていいくらいなんだが、どうもリオは遠慮が抜けない。家族なんだから俺に荷物持ちをさせるのに気を使う必要なんかまったくないんだがなぁ。
気にせず甘えろと言って髪をくしゃくしゃに撫で回してやったら、リオは不満そうに唇を尖らせた。
「お父さんを買い物に付き合わせてるみたいで、なんだか所帯染みてるのがちょっと不満です」
「あー、まあそうか。お前さんまだ若いんだしな」
「もっとデートみたいにしてください」
「ぶはっ!? い、いや、それはどうだろう?」
べつにそう思うことに問題はない、たまの休みに俺と出かけるより友達や恋人と、恋人!? いや同世代の友達と、遊びに行く方がリオも楽しいに決まってる。しかし俺にそれを求めるのは……。
「そりゃあ相手を変えるしか、ないんじゃねぇかな」
「ラバキンさんと私ではそう見えないですか」
どうしたって見えないだろうよ。自分で言ってる通り娘が父親と買い物に来てるようにしか。でも俺とリオはまったく似てないんで他人から見たらどうなんだろうな。お嬢様と付き人って風でもない。
邪推でもなんでもなく、よからぬ関係に見えなくもない。ああそれが悩みどころだ。
開き直っちまうのも大人としてどうかとは思いつつ、俺自身リオへの恋心を認めるのは難しいことじゃなかった。無為に過ごした十数年間を取り戻したい気持ちを捨てがたいのが正直なところだ。
リオは可愛い。その愛情は肉親に抱く感情に酷似しているが、今ならまだ不定形のものだ。それは彼女の方でも同じだろう。
だったらいっそ口説いてしまえばいいようなもんだが、世間から後ろ指さされるこの年齢差を考えるとヤケクソにもなれない。自分の中で時間が止まってたって俺がおっさんなのはどうしようもない事実だからな。
俺はリオが好きだし、彼女も俺を慕ってくれている。だがそれを男と女の間系にしてしまうのは、亡き父親の面影を偲ぶ彼女の心につけこんでいる気がしてならない。
「悩ましいなあ……」
「ラバキンさんは、変なところで慎重なんですね」
「いやいやお前が変なところで大雑把なだけだろ!」
ここで慎重に考えなきゃどうするってんだ。しかしまあ、なんにせよいずれハッキリさせなくちゃいけないのは分かっている。いつまでもこうして呑気に遊んでるわけにもいかないんだ。