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 明日シトロン城に行ったらクラグバーグの方まで行くから、しばらくうちに帰れない。そう言ったのは偶然だ。交易の旅は団長さんの気まぐれに左右されるからいつもは予定なんて決まってない。
「じゃあ、一ヶ月くらい食事の用意は一人分でよさそうですね」
「ああ……うんっ?」
 なんだか妙な言い方だな。そりゃあ帰れない俺の食事を作らないのは当たり前だろうがわざわざ確認することだろうか。今だって俺は毎日うちに帰ってるわけじゃないから、二人分作るのは俺がいる時だけ……だが、ふと気づいた。
 今まで俺がいつ帰ってきてもちゃんと二人分の料理が用意されてたじゃないか。
「もしかして、帰るかも分かんねぇ俺の分も毎日作ってたとかじゃねぇよなあ?」
「作ってますよ?」
 現在進行形だった! お、おいおい本当かよ。じゃあ俺のいない日は一人で二人分テーブルに並べてたのか? そんな未亡人みたいな真似は悲しくなるからやめてくれ!
「ラバキンさんは朝早くに来ることもあれば夜のこともあったし、私の分だけ作っちゃったら手間だもの。三食二人分作っておけば間違いないでしょ?」
「お、俺が来ない日もあったろ。というかその方が多かったはずだが。余った料理がもったいないじゃねぇか」
「犬にあげてました」
「犬に」
「ほら、角のおばあさんが亡くなったじゃないですか。あそこの犬は半野良みたいなものだったからご近所めぐりで餌をもらってうまくやってるんですよ。うちにも来るから、どうせなら毎日のごはんを犬が食べて平気なものにすればいつ来てもあげられるかなって」
 それってある意味、俺の方が犬のおこぼれをもらってたことになるんじゃないのか。それはそれで辛いものがあるな。
「最初から余ることを予期して作ってるので、無駄じゃないですよ。もう習慣なんですから」
「お、おう……」
 だから余計な気を回すなということなんだろうがどうも釈然としない。うちに帰らなかった日は誰も手をつけない俺の分の飯が食卓で冷えていくのかと思うと。
「……帰ってきたくなるでしょ?」
 まるで俺の思考を読むみたいなリオの言葉に驚いて目を見開いた。彼女は恥ずかしげに俯いている。……参ったね。こいつ意外と、やるな。



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