19
リオの手に小さな石が転がっている。何の変哲もないそれを「猫が丸まってるみたい」と喜ぶ彼女が子供っぽくて微笑ましい。
「そんなもん気に入るとは思わなかったぜ」
ミスラト河でたまたま拾っただけの、本当に何でもないただの石だ。話のタネに見せてやってあとは道端に捨てようと思ってたくらいの土産物ですらないそれを、リオは「かわいいから寝室に飾る!」……だそうだ。
意外なような、らしいような。かわいいものや綺麗なものが好きってのは分かるが、宝石とかじゃねぇんだなぁ。
「父さんがいつもズリ山から変な形の捨石を拾って来たんです。趣味とまではいかないけど、私も面白いのを見つけたら集めちゃいますね」
「あー、俺もガキの頃よくやったよ。顔みたいな模様の石とか、動物の形みたいな木の枝とかな」
ヤトともよく山や野原に遊びに行って、どっちがたくさん集められるか競ってた。これは犬の形に見えるだとかいや見えないだとか。ちょっと切なくなるほど懐かしいぜ。
「もう集めないんですか?」
「んー」
集める気を削がれたというのが正しいな。
この町に俺がいた証はなかった。ローガンやギリアムが俺を知っていて、親友の娘であるリオがいて、それでようやくグレイリッジが故郷だと思い出せるだけだ。幼い頃から俺がここで築いてきた形ある僅かなものは一度ゼロになってしまった。今更また集めるのは、面倒なんだ。
こういう話は愚痴っぽくなるから嫌なんだよなぁ。俺はもうこれから先をグレイリッジで新しく生きていけるならそれでいい。なんて諦め半分に浸っていたら、リオがハッと何かに気づいたように顔を上げた。
「ラバキンさん、ちょっと来てください」
「へ? どうしたよ、いきなり」
「いいから。こっちです」
何やら慌てているリオが俺の手を引っ張って連れてきたのは、今は物置になっている部屋だった。彼女の母親……ヤトの奥さんが使っていた寝室。さすがに俺は入ったことがない。
及び腰の俺を強引に押し込んだ彼女は、部屋の奥に積み重なった荷物の山から小さな木箱を取り出してきた。
「父さんのコレクションは二つあったんです。私と拾った石やなんかは別の箱に入れて、こっちは触らず大事にしまってて。理由が分からなかったからそのまま別々に保管してあるんですけど」
「……これは」
「ラバキンさんのじゃないですか?」
まさにそうだ。その箱にはガキの頃にヤトと駆け回った野山で集めたものが詰め込まれていた。無理すれば犬に見えなくもない石だの、決闘ごっこに使った剣みたいな形の小枝だの、月の欠片とか言っていた乳白色のすべすべした石、ただの錆びたボルトなんかもある。
「なんだ、あいつ……こんなもん後生大事にとってたのかよ……」
俺がいなくなったあと、おそらくは捜索も打ち切られて誰もいなくなったこの家に移り住み、俺がいた痕跡を残してくれた。思い出はリオに引き継がれていた。
「ラバキンさん」
「お、おう」
「嬉しいです。記憶にある思い出だけじゃなくて、あなたがこの家にいた証が、」
形として残っていて。ああ本当に嬉しい。他人にとってはゴミやガラクタでしかないが子供の俺たちにはかけがえのない宝物だった。それが数えきれないほど詰まっている。涙が出るほど、この家は暖かい。