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俺が戻ってきた頃に比べると店の品揃えが増えていた。クライス団が国々を渡って商売することでグレイリッジにはない商品が売られるようになり、遠方に出かけた時この町の品を店頭で見かけるようにもなった。嬉しい変化だ。
「うーん」
やや低いところで聞こえた声を見下ろすと、折り畳んで並べられたマント類を前にマリカちゃんが唸っていた。団長さんたちは武器を見ているらしく姿がない。
「どうしよっかな。軍資金から出すなら悩む値段じゃないんだけど、自腹だと迷う〜」
「軍資金から出したら横領だと思うんだがどうよ」
「団長の幼馴染み特権……は、ダメだよねぇ?」
「そりゃ示しがつかねぇなあ。よし、俺が買ってやる」
「えっ、いいよいいよそんなの!」
異世界で俺を見つけてくれたお返しだ。礼は何度も言ったが、マリカちゃんにはいつかきっちり形として感謝を示したいと思ってたんだ。
俺が買ういや遠慮すると言い合っていたところふと背後に視線を感じて振り向いたら、何やら愕然とした表情でリオがこっちを見ていた。
「ラバキンさんに隠し子が」
「どうしてそうなった!?」
やけに消沈した様子のリオに慌ててマリカちゃんを紹介し、訝るマリカちゃんにリオを親友の娘だと説明する。しかしなんだ、「俺の家で一緒に暮らしてる娘」と改めて他人に言うと……。
「ふーん、一緒に住んでるんだ。一緒に、ねぇ」
「なっ、何だよその疑わしげな目は」
「大丈夫かなぁ、って思ってさ。慌てるのは自覚があるんじゃないの〜?」
「ううっ。だ、大丈夫だって! 疚しいことなんかないぞ!?」
なんて言い訳が即座に出てくる辺り、ご指摘の通り自覚がある証拠だろう。大人の立場を逸脱しそうな俺に牽制の視線を投げかける世話焼きでしっかり者のマリカちゃんをよそに、リオは俺の隣に寄ってきて先程のマントを見つめていた。
「この外套、買うんですか? 日除けくらいにしかなりませんよ。クライス団の方々にはあまり役立たないかと」
「あ、ううん、戦闘で使うんじゃないんだ。ジャナム砂漠で発掘作業する時にいいかなって思って」
「ああなるほど、それで今更こんなもん買うか迷ってたんだな」
「ですが砂漠とこちらでは気候がまったく違うので用を成すかどうか。長期間の利用を目的とされるならサルサビル王国でお求めになった方がよろしいんじゃないでしょうか」
「そ、そだね。今度行ったら見てみるよ。ところでリオちゃん? 何か怒ってる?」
「えっ?」
ぶっきらぼうな態度は無自覚だったらしい。呆気にとられて見つめる俺とマリカちゃんを交互に見返し、リオは俯いて頬を染めた。
「……すみません。怒ってないです」
流暢に話す言葉は冷たく、ものすごい勢いでマリカちゃんに対する壁を築いてるみたいだった。知らない相手だから緊張してるのかと思ったが、それよりむしろ。
「嫉妬かぁ〜」
「こらおっさん、ニヤニヤしない!」
戒める声も何のその、リオが俺以外に見せる警戒心まで嬉しいんだから、もう末期だよな。