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 リオにプレゼントをもらったと嬉しげなラバキンがテーブルに救急キットを広げてみせる。怪我の多い仕事を慮って道具屋で買ってきてくれたらしい。それを見て驚いたのはエリンだった。
「協会の人は病や怪我を治さないんです。治療は運命に刃向かう行為、治るも治らないも自然のままに受け入れなければいけないって……」
「そういえばサイナスで会った病人の話を前に聞いたな。医者を呼ぶことも拒んだとか」
「なんだそりゃ、馬ッ鹿じゃねぇのか!?」
 憤るラバキンに私もエリンもまったくもって同感ではあるが、リオにそう言えるかどうかというところで黙ってしまう。
「……言われてみりゃ、うちには薬箱すらねぇな」
「昔、彼女を窘めたことがあるよ。怪我や急病のために救急箱くらい置いておきなさいと」
「ローガンにも説得できなかったのか?」
「怪我も病気もしないように暮らしてるから平気だと言われてしまった。実際、彼女は擦り傷ひとつ作ったことがないんだ」
「すごいと誉めるべきか迷うなぁ、それ」
 今までは慎重だったからよかったんだ。リオは注意深いし、無駄な行動を控えていた。必要最低限のことだけをして毎日を生きていたから、不意の怪我も病気も最大限避けられた。だが今は違う。
「彼女は変わってきました。町の外にも出るようになったので考えを改めないと危険です」
 真剣な顔でテーブルを見つめるエリンの言葉に私とラバキンも唸るように考え込む。モンスターと出会して怪我をしたらどうするのか。いくら健康に気をつけていても他人から病をうつされたらどうするのか。いざという時に、リオが治療を拒んだら……。
「俺に薬をくれたってことはリオも変わったんじゃねぇのかな」
「いや、ラバキンにあげるのと自分で使うのは別だろう」
「ですね。リオ自身については治療を拒否すると思います」
 ひとつの道はヤトを失ったリオの心に差し出された唯一無二の救済の道だった。彼女にとって協会の教えは絶対的なものだ。ラバキンの身を案じて薬を贈ったのでさえ相当に大きな変化と言える。今すぐにそれ以上を求めるのは難しいだろう。
 しかしラバキンのために多少は協会の教えにも逆らえるというのは良い兆候だった。協会を嫌うラバキンに彼女もなんとかして歩み寄ろうとしている。ならば、
「逆にラバキンが薬をあげたら受け取るんじゃないか」
「おっ、ナイスだなローガン! 俺のプレゼントなら少なくとも無下に捨てたりはしねぇよな」
「むしろ『せっかくラバキンさんにもらったから大切にしまっておこう』と言って使わないんじゃないでしょうか」
「……あり得る」
 リオに薬を持たせることはできそうだが、説得力のありすぎるエリンの予想に私もラバキンも項垂れるほかなかった。今のところ、彼女が怪我や病気とは無縁であるよう祈ることしかできないというわけだ。
 もしも彼女に何かあって、ラバキンがその意思を踏みにじれないがために彼女を助けられずにいたら、……私がやろう。リオの意思を無視してでも彼女を医者のもとに連れて行き、薬を与え、無理矢理にでも治療しよう。今の私にできるのはそれくらいなのだから。



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