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余所見をしながら歩いてたら壁にぶつかった。顔を上げると、その壁の正体はラバキンさんの背中だった。
「おっ、悪ぃ! 大丈夫か?」
「は、はい。こちらこそごめんなさい」
歩いてて誰かとぶつかるなんて未経験だった。顔を横に向けて道端の店に気をとられる直前、前方に障害物となるようなものはなかった。ラバキンさんは横を歩いていた。
どうやら、すれ違い様に人とぶつかりそうになった彼が私の前に避けて、それに気づかず私が追突したようだ。
人といると思いがけないことが起きる。それは当たり前だ。ラバキンさんは私ではないのだから、私の予定した通りには動かない。心臓の辺りを押さえたらまだドキドキしていた。
「おいリオ、ホントに大丈夫かよ。そんなにビックリしたのか」
「平気です」
いつも周囲には注意しているつもりだったのに、ラバキンさんが移動したことに全然気づかなかった。それくらい彼の気配に馴染んでいるんだ。
「なんか人が多いなぁ。旅芸人でも来てんのか? ほらリオ、またぶつかるぞ」
慌てて辺りを見回したら、ラバキンさんにぶつかった衝撃で立ち尽くして呆けていた私はかなり通行の妨げになっていた。ぐいっと腕を引かれて道の端に寄り、彼は手と手を繋いだまま歩き出した。これだと思うように動けない。でも、ラバキンさんは私を庇いながら歩いてくれてるみたいだった。
心臓の鼓動がまだ速い。いくらなんでもこんなに長いのはおかしい……病気かもしれない。
「ラバキンさん、ごめんなさい」
「へ、さっきぶつかったことか? もういいじゃねぇか、俺もいきなり前に出て悪かったんだ。そんな深刻な顔して謝るなって」
「いえ、それじゃなくて……何を謝ってるのか自分でもよく分かりません」
「はあ? 変なやつだなー」
確かに変だ。一人で出かけるときはこんなに不注意じゃないし、もっと集中してるし、謝らなければならないようなことは起こらないのに。ラバキンさんのそばではよく失敗してる気がする。