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リオは勘が鋭い。あらゆる物事を計画的に行いたがる性格だが、直感で動くときにもまず間違いを犯さない。張りつめた理性が先の先まで見通してるみたいに正解の道を選び取るんだ。
例えば片方の手にコインを握り「どっちだ?」と尋ねたら、リオは考え込む様子もなく間髪入れずに答える。
「右」
「当たり。なんで分かるんだろうなぁ」
暇潰しに二人で遊んでいたら冗談抜きで百発百中だった。リオ本人も驚いていたくらいだ。こういうゲームが得意だとは自負していたがここまで当たるとは思わなかったらしい。
「なんとなく、こっちかなって気がするんです。握った手の微かな膨らみとかを感じるんじゃないでしょうか」
そうは言うがコイン一枚握ってるかどうかなんて見た目じゃとても分かんねぇよ。不意に思い立った俺はコインをもう一枚取り出して、両手の中にある二枚のうち表が上を向いてるのはどっちだ? と聞いた。
「こっち」
「……正解。ホントにすげぇな。大道芸でやってけるんじゃねぇか」
「タネがない以上は不確実すぎてできませんよ」
せっかくだから両方のコインを上向きにしたまま隠して再びどっちか選ばせてみる。するとリオは、「……なんかズルしてませんか?」と俺を睨んだ。
「だからなんで分かるんだよ」
「観察、だと思いますけど。自覚できるほど確かな情報じゃなくても、ラバキンさんの緊張感とか小さな反応とか、雰囲気で伝わってきて分かるのかな」
じゃあつまり勘ってのは論理を突き詰めた結果なのか? リオは無意識に得た情報を整理整頓して勘に仕立ててるのか。
確かに彼女が注意深いというのは知り合い全員一致の見解だからな。周囲に見えるものの些細な違和感を嗅ぎとり異変に気づく。普通のやつなら見落とすようなほんのささいな違いを敏感に探り当て、“いつも通りではない”ものに心が警報を鳴らす。
要は危機を察知する能力が高いってことだ。その表現はとても納得できる。なんせ日常生活の隅々から“うっかり”を排除した慎重さで、思いがけない出来事に遭遇しないようにして生きてるやつだ。
おそらくは……ヤトの死がきっかけになってるのかもしれない。幼い彼女の無意識にこびりついた恐怖がリオを常に警戒させ、危険から遠ざけてようとしているのかもしれない。どっちにコインがあるのか、予め知っておくことで対処しようとしてるんだろう。
俺はリオを協会から引き離したかった。理由はもちろん、協会が気に入らないからだが。しかしリオを見ているとどうにも迷っちまう。こいつからひとつの道を奪うのは本当に正しいことなのか。彼女がひとつの道を辿らなければ生きられないって言うなら、俺にはその代わりになるほどの覚悟が必要だ。