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 朝は爽やかな「おはようございます」に始まり、夜は折り目正しい「おやすみなさい」で締め括られる。リオが挨拶を忘れたことはない。そりゃもちろん結構なんだが、たまには年頃の娘らしい気軽な言葉も聞いてみたい気がしないでもないのが複雑な親心。
 父娘ほどに歳の離れた女の子が相手なんだ。俺にも一応の面目ってもんがあるし、リオが礼儀正しいのはいいことなんだろうが、それにしても彼女には気安さがない。
「もっと打ち解けてくれりゃあ嬉しいけどなぁ」
「えっ、もう充分なくらい打ち解けてるつもりですけど」
「いや……その敬語、素なのか?」
 そういえば同い年だってのにエリンちゃんとも敬語で会話してたっけな。彼女も相手問わず礼儀正しい態度を崩さない。ローガンの真面目くさった話し方によく似てる。リオにしろエリンちゃんにしろ、周りに丁寧な言葉遣いの大人ばかりだったから自然とそうなったんだろうな。
 考えてみれば俺のガキの頃、鉱山の全盛期だったグレイリッジには常にガラの悪い連中がうろちょろしていた。そいつらの子供もやはり荒っぽい大人に育つ。良くも悪くもこういった“堅物”は昔のグレイリッジにはいなかったんだ。
 やたらめったら他人行儀なやつらが増えたのも協会のせいか? いや、ここは一応“協会のおかげ”って言うべきなのかもしれないが。元から堅苦しい性格してたギリアムのやつも協会の上級職員とやらをやってたおかげで生真面目さに磨きかかっちまったくらいだ。
 たぶん俺の頭ん中が十数年前のグレイリッジのまま止まってるせいで変な気がするだけなんだろう。だから困った顔して首を傾げるリオにちょっと慌てた。
「敬語、やめた方がいいですか」
「いやいやいや! べつに悪いわけじゃねぇんだしよ。元からそういう口調ならいいんだって」
「でもラバキンさんが嫌なら……」
「ああもう気にすんな!」
 むしろ若くして礼儀を知ってるのは誉められるべきだろう。だからこそ俺は困っちまう。長らく人間らしい扱いを受けなかったせいで、敬意を払われるとむず痒く感じてしまうんだ。リオが丁寧なのはいいが、俺にそれを向けられると。
 崩れない礼儀正しさは甘えのなさ、心の距離にも見える。親しげに軽口でも叩いてくれるくらいが嬉しい……けどそんなのは俺の我が儘だとも思う。
 それに考えてみたら、リオがこの几帳面な性格に似合わない砕けた口調になってもそれはそれで違和感あるじゃねぇか。リオがリオらしく素直に接してくれるなら俺は充分に幸せだよな。



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