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 ソファーで寛いで本を読んでいたら、背後から忍び寄ってきたラバキンさんに頬っぺたを摘ままれた。
「あにひゅるんでふか」
「構ってくれねぇからちょっかい出してんだよ」
「そ、そうですか」
 そんな正直に言われると反論のしようがない。ソファーを回り込んで乱暴に腰をおろすと、彼はわざと読書の邪魔をするように私の膝に頭を乗せる。
「時間潰しに本読むくらいなら俺と遊ぼうぜ!」
「私もラバキンさんも遊ぼうって歳じゃないでしょ……」
 これ、しるべの塔に勤めてる方から頂いた教典だから時間潰しじゃなくて勉強のために読んでるんだけどな。でもそうと知ったらラバキンさんは良い顔をしないと思う。いやもしかしたら知ってるからこそ邪魔をするのかも。
 クライス団の人たちはひとつの道のことを一体どの程度知っているのだろう。お互いに譲れないこの問題にどう決着をつけたらいいのか未だに迷っていた。
 なにはともあれ要望通り本を閉じて棚に片づけるとあからさまに嬉しそうな顔をする。ラバキンさんは時々妙に子供っぽいところがある。異世界に捨ててきた若い時間を取り戻そうとしてるんだろうと、彼の二人の友達は言っていた。
 ギリアム様には彼を年相応に見ない方がいいと諭された。そしてローガンさんは、彼が周囲の人間には年相応に見られることを忘れちゃダメだと念を押された。ラバキンさんのなくした時間を埋めてあげられたらとは思うけれど、そうして現実から逃げても困るのは彼なんだ。
 ラバキンさんはギリアム様と同い年だけど、異世界で過ごした十数年は彼にとって抹消したい記憶だ。無意識下においてはグレイリッジを去る前のまま、私より少し歳上程度のつもりでいたいんだ。でも周囲はそう扱ってはくれないし、ラバキンさん自身も諦めをつけようとしている。じゃあ私は彼をどう扱えばいいのか。
「……天気もいいし、出かけませんか?」
「おっ、突発的にそんなこと言うなんて珍しいな。じゃあ、デートすっか」
「はい」
 子供よりも無邪気に笑う彼の表情には大人らしい翳りも見える。強いのに不安定で、頼りになるけど心配な人。子供だって大人だってどうでもいいじゃないか。私は今の彼と出会ったんだから。彼が時間の流れに戸惑っているなら、私はその行く末がどこであれ受け入れてそばにいるんだ。



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