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リオと並んでシトロン城の広場を歩くのは新鮮な感覚だ。彼女は普段なら滅多にグレイリッジの外へ出ないから二人で出かけると言っても町の中で買い物を済ませるだけだ。それが何の気まぐれか俺と一緒ならクライス団の本拠地に行っても構わないと言うので連れてきた。
さすがに協会信者を上の階へ入れちまうのはまずいだろう、店を一通り見ながら農牧場へ抜ける。帰りに食堂に寄るのもいいかもな。
武具を必要としないリオは交易所に興味があるらしい。見慣れない食材や鉱石類、意外にも服や織物に目を輝かせてきょろきょろしている。こういう女の子らしい面を見るのは俺も嬉しかった。
いろんな地域、いろんな種族、異世界から来た住民も多いこの城には、各々の需要に応えるためどんな国よりも多様な文化が集まっている。リオが興味を示したのはジャナム帝国の……サルサビル地方でしか見かけないようなエキゾチックな服だった。
「これ可愛い……」
男物は露出が激しいが女物ならそうでもない。とはいえ協会的なしかつめらしいリオの普段着と比べたらかなり際どい格好だが、たまにはこれくらいはめをはずしてもいいんじゃないかと思う。
「欲しいんなら買ってやるぜ」
「いえ、やめておきます。私には似合わないので」
「んなこたねぇだろ。絶対かわいいぞ」
「こういうのはもっとスタイルがいい人じゃなきゃ。見る分には素敵だけど欲しくはないんです」
「そんなもんかねぇ」
可愛いと思えば着たいもんじゃないんだろうか。よく分からねぇな。俺がシャムス王子の格好を様になってて男前だと思いつつ自分では着たくない、みたいなことか? しかしリオの場合はちゃんと似合ってるだろうに。髪は淡く色白でジャナム人とは趣が違うが、そんなのは帝国の姫さんも同じだしな。
確かにジャナムの服は体の凹凸を強調するいわゆる“大人の女”の衣装だ。しかしリオもスタイルは申し分ない程度に育っている……いや! このことを考えるのは止そう。うっかりするとまずいところまで踏み込みそうだ。
「なんかこう、ひらひらふわふわした服は欲しくならないのか?」
「あんまり。お洒落着って好きじゃないんです。日常生活で不要品になってしまうので」
「そらまあそうだけどよ」
「普段も使いやすくて私に似合ってるものがいいです」
なんとも地に足ついた夢のない考え方だがリオらしいと言えばらしい。
グレイリッジは流行に疎く垢抜けない町だった。俺の若い頃は鉱山事業が活発なおかげで活気に満ちていたけれども、今じゃまた寂れた田舎町に逆戻りしている。洒落っ気よりも機能性を重視するリオの気質はとてもグレイリッジの人間らしいと言えた。ただ、それでもこの年頃の娘なら故郷の田舎臭さを嫌って異国に憧れたりするもんなんだが。
リオが自分で好きな格好をすればいい。それはもちろんだ。しかしまるで成熟した大人の堅苦しい服装は彼女本来の嗜好なのか? 子供らしく頼りない、ふわふわして機能性のない服は、誰かに守ってもらえることが前提のものだ。そうじゃなくなってしまったから『似合わない』と思い込むようになっただけじゃないのか。
もっと何も考えずに、自分を着飾るためだけのおしゃれを楽しんでもいいんだがなあ。