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何か用があってのことじゃなく、単なる気まぐれでグレイリッジを出るのは両親が死んでから初めてだ。そして月が天高くのぼっている時間まだ眠らずにぼんやり外を眺めているのも。
ここは住み慣れた我が家ではなくクライス団の本拠地であるシトロン城。私はラバキンさんに与えられている部屋で夜を過ごすことになった。普段と違う、予期せぬ状況に置かれたせいか、なんとなく眠れない。窓辺にもたれかかって煌々と輝く月を見ていた。
ふと視線を感じて振り向くと、私にベッドを譲ると言い張って聞かなかったラバキンさんがソファーに寝そべりながらこっちを見つめている。
「どうかしましたか」
「ん? いや、綺麗だなと思ってよ」
「ああ、そうですね。なんだかいつもより光って見えます」
それはきっと気のせいに違いないのだけれど。満月じゃないし、いつもより大きいってこともない、何の変哲もなく昨日とほとんど同じ月だ。グレイリッジから見るのと変わらないはずなのに。
「……月じゃなくてリオの話なんだけどな」
「は?」
思いがけない言葉に唖然とした。見れば彼は言ってから恥ずかしくなったのか頭を抱えて項垂れている。
私は早寝だし、こんな静かな夜に二人で話す機会なんて今までなかったし。見るものすべて月光を帯びた輪郭が淡く輝いて、幻想的な印象を作り上げている。いつもと同じ夜が特別に感じられるのだと彼は言う。
「ラバキンさん……似合わない……」
「うるせー! 自分でも思ったよぉ!」
「夜なので静かに」
「冷てぇなあ。まるで月みたいだ」
「……大丈夫ですか? なんか変ですよ。ロマンチストもどきなこと言って」
「もどきって何だ、もどきって。男はみんなロマンチストなんだよ!」
昼日中にはそんな臭い台詞を嫌がるような人なのに、やっぱり夜更かしは体にも頭にも良くないんだ。明日の朝にはグレイリッジに戻らなきゃいけないから早く寝ましょうと言うとラバキンさんは「リオはロマンがねぇな」と不貞腐れていた。女はみんなリアリストなんです。
落ち着かないのは知らない場所にいるから。眠れないのは自分のベッドじゃないから。ドキドキするのは、ラバキンさんが変なことを言ったからではありません。