金色の灯火
目を開けると、ぼやけた視界に黒髪の女が顔を出した。寝起きのせいか意識がはっきりしないけれど金色の瞳だけがやけに強い印象を残して映る。親しい者でもないのに、とても懐かしく思うのはどうしてだろう。
彼女は荒野で出会った娘だ。名前は確か……。
「モリガン?」
「目が覚めたのね。自分の状況は理解できているかしら」
「いや……」
ゆっくりと体を起こして辺りを見回すが、まったく覚えのない部屋だった。モリガンがいるということはコーカリ荒野の奥地にあるフレメスの小屋なのだろう。しかし私はなぜここに?
少しばかり記憶が飛んでいた。混乱しているだけだとは思うけれど、それ以上に頭がぼんやりとしてこの不可思議な事態についていけない。
まずは落ち着かなくては。最初に、自分がどうして荒野にいるのかを考えた。そう……ダークスポーンとの戦争のためだ。戦争に加わった経緯、ハイエヴァーからこの地へ至る過程が怒濤のごとく蘇り、最後にあの戦闘のことを思い出した。
イシャルの信号灯を点したあと、私たちは殺した怪物をどう始末すべきかで悩んでいた。ダークスポーンの死骸はさっさと焼却しなければ周辺に汚れを撒き散らすのだ。
しかし今も怪物どもに占拠されたままの塔で、小柄なジェンロック程度ならともかくオーガの巨体を焼き払うには連れの魔道士だけでは手が足りなかった。といって戦闘が終わるまで放置していいものかどうか。
そんなことを相談している内に、地下から更に大量のダークスポーンが噴出してきた。何か疑問を抱く暇もなかった。一瞬にして囲まれ、無数の矢が降り注ぐと同時にやつらは私たち目掛けて殺到してきた。
覚えているのはそこまでだった。普通に考えるなら私はあの場で死んでいただろう。またしても……助け出されたということか。
モリガンが放り投げるように寄越した麻のシャツに袖を通しながら、簡潔にして無愛想なこと極まりない彼女の説明を聞いた。
「母が間一髪あなた方を救出したけれど、他の者たちは全滅だそうよ」
「そうか」
どうも現実感が持てずにいる。自分自身すら生きている気がしなかったので“全滅”という言葉もあまり心に響かない。思うのは、それならあの戦いにファーガスが参戦していなかったのは幸いだ、ということだ。
私の意識はモリガンの『あなた方』という言葉に向いた。小屋の外から相棒の匂いがするのに気づく。前に協定書を探しに来た時は連れていなかったから、残り香ではない。間違いなく今ここにいるということだ。彼の無事を知ってようやく人心地ついたようだった。
フレメスは伝説にも語られる魔女だから、きっと私の知りもしない強力な魔法で助けてくれたのだろう。その詳細が気にならないわけじゃないが、今は他に考えるべきことがあった。
「戦いはあの後どうなったんだ? 軍の動向について何か情報は?」
「詳しくは知らないけれど、あなた方の合図に応えるはずだった男が味方を裏切って逃げたの。彼の部下以外は、王も兵士も皆殺されたか、今まさに殺されている最中でしょうね。戦いはダークスポーンが勝ったわ」
それはどうだろう。そもそもダークスポーンの勝利とは何だ。フェレルデンを覆い尽くして地図を塗り替えることか? それは成功していない。現に今、この小屋にやつらの姿はない。敵に奪われたとしても、まだオスタガー以南の荒野だけだ。
ロゲイン将軍が逃げたという真偽の疑わしい言葉はひとまず置いておくとして、まだ我が国は闇に呑まれたわけじゃない。
「他にも生存者がいるはずだ。後方部隊は? キャンプで待機していた兵たちはどうなったんだ」
ケイラン王はグレイ・ウォーデンと共に最前線にいた。敵の横腹を突くはずだったロゲインが作戦を覆して撤退したというならばそれを宛にしていた彼らは孤立無援でダークスポーンの軍に押し包まれたに違いない。生存は絶望的だ。
それでも戦闘に参加していなかった者や、散り散りになって逃げている兵士を探し出して集めることはできる。……そんな私の甘い考えを、モリガンはあっさりと打ち砕いた。
「南から来たダークスポーンは王の軍を苦もなく殺して進んだわ。そしてあなたのいたイシャルの塔から現れキャンプを蹂躙していた軍勢と合流した。最初に逃げた者以外に生き残りなんていないわよ。今この瞬間は生きているとしても、荒野から出る術さえなく死んでゆくでしょうね」
「……なるほど」
思った以上に不愉快な状況だな。ダークスポーンは荒野の南方より進軍し、真正面からぶつかってくるはずではなかったのか。モリガンの話を信じるなら私たちはつまり、罠にかかったのだ。やつらの挟撃をまともに食らったことになる。
ただでさえまとまりに欠けていた軍の中から自力で兵を集めて無事に撤退できた者が居たかは甚だ怪しい。おそらく負傷者や非戦闘員も含めて皆殺しだ。彼女の言う通り、ロゲイン将軍の反逆に従った者たち以外に誰も生きていないと思われた。
オスタガーには多くの兵が集まっていたが、有力な貴族はほとんど様子見のため領地に引き込もっていた。ロゲインは王都で彼らを召集して軍の再編に取り組むつもりだろう。将軍は王を見捨てたのかもしれないが、現段階では彼を責める言葉は見つからない。
グレイ・ウォーデンが見逃したダークスポーンの奇襲を受けてキャンプは壊滅したのだ。将軍が逃げていなければ彼の軍も含めて完膚なきまでに殲滅されていた可能性だってある。あるいは彼の裏切りのお陰で我が国は命を繋いだのかもしれない。
とにかく、ここでベッドに座っていても推察以上のことはできそうにない。身の振り方を考えるためにも正しい情報が必要だ。
王が頼れなくなった今、私はハウ伯爵にとって有象無象の小娘に過ぎない存在だから、デネリムに戻って女王かロゲインに話を聞いてもらわなければ伯爵を裁判にかけることもままならない。そうやって彼を弾劾したとして得るものなど何もないけれど……。
クーズランドの名のもとに正しいことを為さなければとは思う。でも何のために? 公爵領を取り戻したところで私はそこに帰れないんだ。この穢れた体でクーズランドを名乗れはしない。私の居場所も、名前も、奪い去られてしまった。
切り裂かれてボロボロになった革鎧を身につければ私はどこからどう見てもオスタガーの敗残兵となった。荒野の外の状況によっては鎧を捨てて難民のふりをした方がいいかもしれない。
「……助けてくれてありがとう、モリガン」
もう出立するとの意図を込めて礼をすると彼女は大きく目を見開いた。なぜそんなに驚くのかとこっちも驚きだ。
「助けたのは母よ。私は何もしてないわ。癒しの魔法は不得意だもの」
「少なくとも、服を脱がせて傷口に包帯を巻き、ベッドに寝かせてくれたのはあなただと思うが」
火にかけられた鍋からいい匂いがしている。フレメス……あの気の触れた老人と二人、こんな僻地でまともな暮らしができているのはモリガンが面倒を見ているからだろう。私の命を拾い上げたのはフレメスでも、再び目覚めることができるよう助けてくれたのは間違いなく彼女だ。
「正直、起きて最初に顔を合わせたのがフレメスだったら私は今も混乱していたと思う」
「ああ、母にそういった人間らしい対処を求めることはできないでしょうね」
「だからありがとう、モリガン」
重ねて言うと彼女は眉をひそめてそっぽを向いてしまった。想像だが、荒野に暮らす彼女は感謝されることに慣れてないんじゃないか。
「私だったら名もないウォーデン二人ではなく王を助けたわ。だから、感謝なら母にしておいて」
だろうな。私を救ったところで謝礼金を支払い名誉を称えてくれる家族はもう亡いのだから。私一人の存在には大した価値など……。
そこまで考えてふと首を傾げた。「ウォーデン二人」とモリガンは言ったのか?
「私の他にも生存者が?」
「お友達が外でお待ちかねよ。たぶん今もみっともなく泣きじゃくっているでしょうから、早く顔を見せてあげるといいわ」
「……分かった」
頷きつつも何一つ分かっていないまま小屋を出ると、行儀よく伏せて待っていた愛犬が私を見上げて短い尾を振った。軽く頭を撫でてやり周囲を探す。
まず見つけたのは不遜な態度で私を眺める魔女フレメスの後ろ姿。そして小屋から離れたところに、呆然自失のアリスターが私に気づかないまま立ち尽くしていた。
お友達になった覚えはないんだが。アリスターは荒野の奥を見つめたまま、こちらに気づく様子はない。先にフレメスが私を見つけて肩を竦めた。
「ほら、お仲間が目を覚ましたよ。だから心配することはないと言っただろうに」
言葉のわりに優しさを感じない声音のフレメスを振り返り、続いて私の方へ向けられたアリスターの目が驚愕に見開かれる。下瞼が真っ赤に腫れていた。本当に今まで泣きじゃくっていたのか。
「し、信じられない……絶対に死んだと思ったんだ。やつらに襲われて、あんたはずっと、目が覚めなくて……」
彼は私よりかなり早くに起きたようだ。私は始めから自分一人だけ助かったのだと思い込んで諦めていたが、共に生き残った者が今まさに目の前で死にかけているのを見守らねばならなかった彼は、さぞ辛かっただろう。
それは分かるけれど。感受性の豊かな人だとも思う。つい最近に出会ったばかりの私を喪いそうだからといってそこまで泣けるものか? よほど情緒不安定になっているらしい。
そういえば、私は未だ泣いていなかった。両親の死を認めてしまう気がして泣きたくなかった。アリスターは己がすべてを喪ったという事実を受け入れて悲しんでいる。認めて嘆く強さがあるだけ私よりは上等な人間だった。
おろおろと近寄ってきたものの、これが現実かどうかを確かめるのが怖いとでもいうように彼は少し離れたところで足を止めた。仕方なく私から彼に歩み寄り「心配してくれてありがとう」と彼の肩を叩いた。
アリスターは涙に滲んだ目を拭い、安堵の息を吐いた。彼が生きていたことは素直に祝福するが、そのせいでグレイ・ウォーデンの使命に巻き込まれはしないかと少し心配な面もある。
「ロゲインはなぜこんなことをしたんだろう……ウォーデンなしでブライトを乗り越えられると思ってるのか?」
私が目を覚ましたので悲しみが引いたらしく、アリスターはロゲイン将軍の裏切り行為に憤慨し始めた。実際ウォーデンが居ても役に立たなかったのは事実だから公爵の行動は間違ってもいないと思ったが、今の彼に皮肉をぶつけるのも酷なので黙っておく。
「アーチデーモンを探さないと。でも俺たちだけで、どうしたらいいのか……」
「他国にもウォーデンがいるんだろう? オーレイからの援軍が本当に来てるなら怪物との戦いは彼らに任せればいい」
フレメスはしばらく私たちの様子を見ていたが、やがて私たちの今後について口を出してきた。それで彼女の思惑を知る。なぜわざわざイシャルの塔から私たちを助け出したのかを。
「おや、それは名案だ。黙って助けを待てば親切な誰かがきっとなんとかしてくれるに違いない」
横槍を入れながらフレメスは皮肉げに口を歪めた。微笑のつもりだろうが神経を逆撫でされる。
「自分では何もする気がないくせに私を責めるのか。あなたこそ素晴らしい力をお持ちのようだ。その魔法でアーチデーモンを葬り去ってくれないか?」
「隠居した年寄りに何を求めるんだい。ブライトに対処するのはいつの時代でもグレイ・ウォーデンの仕事だと思ったがね」
「その仕事を押しつけるために助けてくださったわけか」
オスタガーにいたウォーデンが全滅した以上、どうしようもなくなった難題の責任を誰かになすりつけてしまいたいだけだろう。それを“グレイ・ウォーデンにしかできないこと”にしておけば自分が何もしない言い訳が立つ。
しかし私はそう思わない。これには我が故郷フェレルデンの未来が懸かっているのだから、グレイ・ウォーデンの使命など関係ない。私が為すべきはウォーデンの仕事よりも、軍の立て直しだ。
「ウォーデンを頼っても馬鹿を見るだけだ。私はケイランの後を追う気はない」
「では自分たちだけでなんとかするほかないだろうね」
傲岸に言い放たれた言葉に苛立つ。そもそもフレメスはこれを予見していたように思えてならなかった。
彼女は古の協定書を保管しつつも自らグレイ・ウォーデンに返却しようとはしなかった。ウォーデンが来るのを待っていたんだ。ダークスポーンで溢れる荒野にありながら彼女の小屋は安全に守られていた。災厄への備えは万全だった。
なおかつ彼女はどういうわけか、イシャルの塔にウォーデンがいることも知っていた。私たちはケイランの急な気紛れで塔に配備されたというのに、だ。
フレメは、あそこにいたのがグレイ・ウォーデンでなくとも助けただろうか? 私とアリスターは救出され、あの魔道士は見殺しにされたのに? そして救い出した私たちにブライトと戦えと彼女は言う。
全滅を喫した軍の中で唯一の生き残りは二人のグレイ・ウォーデン。出来すぎている。始めからすべてを見通していたとしか思えない。この魔女は信用ならない。
私が入団させられた経緯をダンカンから聞いているのであろうアリスターは、その称号を蹴って逃げるのではないかと心配しているらしかった。無理矢理にでも引き留めたいという顔をしながら口を挟めず戸惑っている。
泣き縋るような彼の目つきが気に入らない。隣り合わせで戦ってる間は何とも思わなかったが、窮地に立たされた途端になんて情けない男だろう。
「……いずれにせよ、ブライトだのウォーデンだのについて私は何も知らない。ここで本当にグレイ・ウォーデンと呼べるのは彼だけだ」
アリスターを指し示し、私には関係ないと背を向けようとしたところ、さすがに慌てた彼が悲鳴じみた声をあげて私の肩を掴んだ。……痛いな。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「私には私のすべきことがある。ウォーデンの使命とやらが必要なら、それはあなたが為せばいい」
「もう俺たち二人しかいないんだ。ブライトと戦うには、俺たちがやるしか……、頼むから今になって手を引くなんて言わないでくれ」
手を引くだって? そもそも貸した覚えがない。私は無理やり連れてこられただけだと、まさか彼は知らないのか?
生き残ったのが他のウォーデンではなく私であったことを悔やむならともかく、私を疑いながらも仲間でいろと言うアリスターの態度はいまひとつ理解できなかった。
……いや、そうか。彼は“私”ではなく単に“生き残りのウォーデン”に縋っているんだな。アリスターにとって私が唯一の仲間なんだ。私がグレイ・ウォーデンを憎んでいることなど、私自身の心など、斟酌する必要はないのだ。
「俺一人じゃどうしたらいいのか、何も分からない……。お願いだ、一緒に来てくれ」
身の回りで起きているすべてが他人事のようで、ひどく稀薄になっていた現実感が急に戻ってきた。明々と燃えるのは復讐を誓う灯火だ。
アリスターに感謝しなければ。お陰でまだ死ねない理由があるのを思い出した。
もしファーガスの身に何かあれば我が家は本当に滅んでしまう。なのにグレイ・ウォーデンなんかになったら兄を探すこともままならない。
我が家を背負う最後の一人、エリッサ・クーズランドを殺したのはハウ伯爵ではなかった。クーズランドを名乗って死ぬことを許さず、私を無名の存在に貶めたのはグレイ・ウォーデンだ。まだ復讐を遂げていない。こんなところで声もあげずに死んで堪るか。
祭壇で飲み干した汚濁と共に、我が身を流れる血液も一滴残らず絞り出してやる。いずれ灰となって舞う定めならば屍だけはエリッサ・クーズランドとして朽ちてゆこう。
私の瞳に滾るものに気づいたのか、フレメスは皮肉げな笑みを口の端に浮かべた。
「どうやらあんた方には共通点が多いようだな。失ったものが大きすぎて思考がまとまらないのだろう。だが、残念なことにゆっくり考えている時間はないよ」
わざとらしい溜め息混じりのフレメスの言葉を聞き流してアリスターに向き直る。
足を止めたまま去ろうとしない私に、アリスターは怪訝そうな目を向けた。一人になるのがよほど怖いのだろう、また涙ぐんでいる。木漏れ日を受けて彼の濡れた瞳は鬱金色に輝いていた。
今の彼は襲撃を受けた翌朝の私と似た心境なのだ。そう考えて、労ってやらなければと自分を戒める。
「私が加わったところで、二人だけでは成し遂げられないだろう。頼れる相手はいないのか?」
私を仲間としてもいいのか、戸惑いを拭えないままアリスターは焦ってフレメスに目をやった。「私はただの無力な老人だよ」なんて憤慨する老婆を無視して唐突に彼が叫ぶ。
「協定書だ! 古のグレイ・ウォーデンが結んだ契約がある。サークル・オブ・メジャイ、デイルズエルフ、ドワーフ、彼らはブライトに立ち向かうため俺たちに協力する義務があるんだ」
ああ、ろくに目を通してもいなかったが、確かに古い盟約があるのだと聞いたような気もする。
ただでさえ強力な徴兵権を有していながら異種族の軍にまで強制力を持つのか。時代と共にグレイ・ウォーデンという組織が忘れられていったのも無理はない。国にとっては害にしかならない存在だ。
フェレルデンを守るためにはどのみちアーチデーモンと戦わなくてはいけない。ならばウォーデンの使命とやらを利用し尽くしてやろう。だが私は彼らの名誉など守らない。
鎧と一緒にフレメスが確保していた協定書を取り出し、その文面を眺めた。サークルはともかく、ドワーフやデイルズエルフとの同盟など有効性はあるのだろうか。
「前のブライトから長い月日が流れた。彼らにとってグレイ・ウォーデンは邪魔な存在かもしれない。協定書が無効とされた場合は誰に頼る?」
過去の威光だけで人々を従えられないのは証明済みだ。アーチデーモンと戦うなら軍隊が必要になる。つまり、貴族たちの信任を得なければならないということだ。
「イーモン伯爵を訪ねたらどうだろう。彼はオスタガーにいなかった。伯爵領の精鋭兵は無傷で城にいるはずだ」
「レッドクリフ伯か。なぜ彼が協力してくれると思う?」
「彼のことは……個人的に知ってるんだ。誠実で、正義を重んじる。民衆にも人気がある。ロゲインに対抗できるなら彼しかいない」
ロゲイン公爵だって人望ある貴族だ。このフェレルデンに彼より称えられる者はいないだろう。内心をうまく隠して民衆に都合のよい人柄を見せかけるのは貴族の得意技だが、公爵は行動することで実際的な人気を築き上げてきた。敵にまわしたくない相手だ。
国を一つにまとめあげるなら、それよりもアノーラ女王に接触することを考えた方がいいのではないか。うまくすれば公爵と敵対することなく、ダークスポーンとの再戦に挑めるかもしれない。
しかしそれもデネリムに着いてからの話だ。ともかく荒野を出なければ如何ともしがたい。
話がそれなりにまとまったところで、またフレメスが口を挟んできた。
「魔道士、エルフ、ドワーフ、それに伯爵の兵士と来た。私には立派な軍隊のように聞こえるがね。これ以上の何を望むんだ?」
強いて言うなら情報だな。軍勢を用意するのだって言うは易いが為すのは困難、けれどそれ以上に、兵が集まっても倒すべきアーチデーモンの居場所が分からないのは問題だった。
どうにかして他のグレイ・ウォーデンから情報を得なければいけない。たぶんアリスターもブライトを終わらせるため具体的には何をすべきか知らないだろう。彼は入団して半年足らずだとか言っていたはずだ。
先行きは不安だった。しかしお仕着せられた運命への深い憎悪が私を導いている。
「……うまくいくと思うか? 俺たち二人で軍を集めて、アーチデーモンと戦って……やれるかな?」
「さあ。しかし始めてみなければうまくいきようがない」
「そうだな。……ああ、その通りだ」
私の行く末がどうなるにせよ誰かがブライトを終わらせなければならないのは事実だ。逃げるとか、やめるとか、そんな選択肢があったとして目を向けるわけにはいかなかった。
たとえグレイ・ウォーデンでなくともやらねばならない。フェレルデンを……私が私として死ぬ場所を守るために、運命と戦うことにしよう。