しあわせな夢を紡ぐひと
窓から射し込む夕陽が部屋の隅々まで暖かな色に染めていた。セリアは先ほど縫いあがった紅色のカバーを、昨日作っていたスツールに取りつけている。穏やかな夕暮れにうとうとしながらロゲインはベッドに腰掛け、その膝上に陣取ったアリスターがセリアの手元を熱心に眺めていた。
庭で遊んでいたアノーラが戻ってくるなり「わたしも!」とせがむので、アリスターにしたのと同じように娘を抱えあげてベッドに乗せる。この寝台は子供が自分でよじ登るには大きすぎた。
子供たちは夫妻と一緒に寝たがった。本来セリアの寝室は別のところにあったのだが、最近では結局四人で揃って眠る決まりだ。グワーレンに居を構えた当初ロゲインは公爵に相応しい巨大な寝台が苦手だったが、この密度が彼に安心感を与えた。
じゃれあう子供たちを微笑ましく眺める。膝から転げそうなったアリスターを片手で捕まえ再び妻に視線を戻した。
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セリアが作っているのは幼子なら上で寝転がれそうなくらい幅広のかなり背の低いスツールだ。脚は太く頑丈で、すべての角は丸められてカバーの下にたっぷりと綿を詰め込んでいた。大人が腰かけても鏡台に少し届かぬ程度の高さ。かえって不便そうな、優秀な家具職人の子の作にしては妙な出来映えだった。
「それはどうするんだ?」
邸宅には一家と使用人たちが暮らしてゆくために必要なものがすでに揃っている。アリスターが来てから新たに足りないものも出てきたが、数年かけて家を作り替えた。家族に不便な思いをさせることはもうないはずだとロゲインは自負していた。セリアは趣味も兼ねて家具を自作するが、不要なものは作らない。一体これをどこに置くのか。
首をかしげたロゲインに彼女はにこりと笑ってみせる。
「はい、できた!」
座面のクッションをぽんと叩き、それをロゲインのそばに置いた。
興味津々のアノーラがベッドの端へとにじり寄ってスツールに足を乗せる。こうして見るとちょうど小さな娘がベッドの縁に腰かけたときに足が着く高さにできていた。
「……足場か」
笑顔で頷き、裁縫道具を片づけるとセリアもぴょんとベッドに飛び乗った。子供と変わらぬ仕種に苦笑する。
「これがあれば、この子たちが自分でここに登れるでしょう?」
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ベッドから飛び降りたアノーラは、スツールの上に乗ったり降りたり跳ね回っておおはしゃぎだ。自力でこの領域に踏み込めるのが嬉しいのだろう。つられてロゲインの膝から降りたアリスターもゆっくりとスツールに乗り、シーツに手を置くと「よいしょっ」と舌足らずな掛け声でベッドによじのぼった。なるほど、子供用としては全く適切な大きさだ。
「えらいわ、二人とも。いい? 自力ではできないことがあるなら、こうやって状況を変えてしまうのよ。なぜできないのかを考えて解決するの」
優しく子供たちの頭を撫でる妻に感服しつつ、ロゲインはむっつりと押し黙った。
「あらどうしたの?」
アリスターがいなくなり軽くなった足を引き上げて、ベッドの上であぐらをかいた。
「……この子らが自分でベッドに登れるようになったら、私が抱き上げて手助けできんじゃないか」
一瞬、セリアはぽかんと口を開けた。すぐにケラケラと笑い転げる。
「あなたったら、子供たちよりも甘えたがりね!」
「うるさい」
涙まで浮かべておかしそうに笑う彼女を見て、アノーラとアリスターもわけが分からないまま笑った。それを聞いてますます機嫌を悪くしたロゲインだが、ベッドの上でころころ転がりながら嬉しげに騒ぐ二人を眺めるうちに、結局はだらしなく破顔してしまうのだった。