著しく職人
アノーラとアリスターは目まぐるしく働いていた。小さな足でまわるには広すぎる邸宅の中庭すべての花壇に水を撒き、虫をとり、落ちてしまった葉や花を片づける。病気の兆候をセリアに知らせ、腐葉土や堆肥を運び、言われるままに新たな苗を母のもとに持ってきた。
「大した精勤ぶりじゃないか」
感心しきりのロゲインにセリアは苦笑を返した。手には大きな剪定鋏を持っている。
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つい先日のこと、庭仕事を興味津々で見守っていた子供たちが鋏を手にすると、セリアは怒ってそれを取り上げた。びっくりして退くアリスターの前に立ち、気の強いアノーラが母を見上げる。
「わたしたちもバラのお世話をしたいです」
「駄目よ」
らしくもない剣呑な目に傍らで見ていたロゲインまで少し驚いた。セリアは鋏を武器のごとく構えて仁王立ちで怒りを発する。
「あなたたちに剪定は任せられないわ。水やりや虫とりならともかく」
「で、でも! ずっと見てきたから、どの花を取ればいいかも分かります!」
「いいえ。あなただけが分かっているつもりでいても意味がありません。アノーラ、アリスターも、私に信頼されたいのなら相応しい仕事ぶりを見せなさい」
その言葉に従って、二人は必死で働いているのだ。セリアに一人前だと認められ、本格的なバラの世話を任せてもらうために。
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ロゲインは泥だらけでせっせと動きまわる二人をじっと眺め、続いて妻の様子をちらりと窺った。彼女は子供たちに目も向けず一心に花の面倒を見ていた。
「信頼してやってもいいと思うのだが」
どうせセリアがそばについているのだから失敗したってたかが知れているし、失敗から学ぶものもある。子供に挑戦の機会を与えるのも大切なことではないだろうか。セリアは振り向きもせず断固として言い放った。
「信頼はしてるわよ。でもこの鋏は重いし大きいから、まだ危ないじゃない」
「……あの子らに言ったのと違う」
嘘も方便だと笑う妻に呆れてどう言っていいやら分からない。単に「まだ小さいからダメだ」と言えば確かにアノーラたちは納得しないだろう。いや、理解してしまうからこそ不満を抱くのだ。
セリアは子供たち自身にどうにもできないことで我慢を強いはせず、努力をさせることでうまく鬱憤を募らせずに誘導していた。きっと彼らが成長するまで鋏に対する興味とそれを得るための頑張りは持続するはずだ。
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ロゲインには基準の分からない選択を用いてバラの花を切り取ってゆく。どれも綺麗に咲いているように見えたが容赦なく摘まれてしまう。なんだか勿体ないなと素直に呟くと、セリアは夫を振り返って少し切なそうに笑った。
「駄目な部分は捨ててしまわないと、全体のためにならないのよ」
「悲しそうだ」
「だって、ちょっと割り切れないでしょう? どの花も一生懸命咲いてるのに。でも……これが私の役目だから仕方ないわ」
よく花を知り、助けを差し出すべき境界線を引いてその外側にあるものを諦める代わりに、内側へ受け入れたものを必ず守り抜く。愛情と冷酷を併せ持つセリアはバラ園のよい指揮官だった。子供たちもきっとこの資質を受け継いでくれるだろう。
不意に庭の向こうできゃあきゃあと高らかな声があがる。どうやらアリスターが芋虫を見つけて二人ではしゃいでいるようだ。
平穏を噛み締めながらロゲインは、この庭園を丹精する主人に尊敬の念を改めた。