夜更かしとホットミルク



 ドアの陰に隠れるようにしてアリスターがこっそり部屋を覗き込んでいる。中にはロゲインとアノーラがいたはずだが、一体なにをしてるのかと首を傾げてその後ろ姿に近づいた。
「どうしたの?」
 声をかけるとアリスターは慌てて振り向き、しーっと人差し指を口にあてた。そしてセリアの耳元に口をよせ極々小さな声で囁く。
「見てよ、あの二人すっごい面白いんだから」
 そう言われてセリアもドアの隙間から覗いてみた。部屋の真ん中に置かれたソファーの上で二人は本を読んでいる。ロゲインが肘掛けにもたれかかって寝そべる反対側にはまったく同じ格好のアノーラがいた。
 夜も更けて暗くなった部屋でぼんやりとした灯りが眠たげな顔を浮かび上がらせる。アノーラは成長するにつれロゲインに似てきた。まだ女らしさの現れていない少年じみた横顔なんてそっくりだ。冴えた青い瞳も薄い唇も、眉間に刻むシワまでも。
 二人が読んでいる本はそれぞれ違う内容のはずなのに、文字を辿る目線の動きやページをめくるタイミングまで父娘で揃っている。鏡で写したようだった。
 セリアとアリスターは顔を見合わせた。
「あらあら、お父さん似だとは思ってたけどここまでなんて」
「だんだんそっくりになってきたよね」
 そんなことを話していたらロゲインが大きなあくびをし、向かいにいるアノーラも同時に口を開けてふわあと間抜けな声をあげる。重くなった瞼を右手でこすり、ぽりぽりと鼻を掻く。すべて同時、まるで左右対称。
 アリスターは笑いをこらえて肩を震わせた。
「どうしようかしら。アノーラが将来あんな頑固者になったら困っちゃうわ」
 本当に困った顔をするセリアに堪えられずアリスターは噴き出した。部屋の中では相変わらずそっくり同じ動きでうとうとしてはハッと顔をあげ、また本のページをめくる。合わせようと思ったってここまで揃わない、とアリスターは感心しきりだ。
 もうかなり眠いのだろうに読み終えるまで寝そうにない頑固な二人と、それを熱心に見ているアリスターにセリアは苦笑する。似てきたのはこの子も同じだと思う。
「……ミルクでも温めてあげましょうか。アリスター、手伝って」
「はーい!」
 きっとまた鏡みたいに同じ動きでミルクを飲むのだろうと想像して笑う。そのときの目尻がお前によく似ていると、ロゲインに言われたのを思い出した。



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