人間のためのプログラム



る”ことはできない」
「でも私がいなくなったら……」
 彼の妻になることで私は財を得るけれど、クーズランドの刃になるにはアマランシンは遠すぎる。私がここを出た途端に謀反が起きるんじゃないか。クーズランドがなくなってしまう。父さんにはもう、貴族を従わせるだけの力がない。
「目に見えるものだけを見るな。お前がいなくなる代わりに私が後ろ楯になるんだよ。何も変わりはしない、公爵の娘が伯爵夫人になるだけだ。アマランシンの、だぞ? 誰かがブライスを害しようとすればその者はアマランシンの敵になる」
 ……私の報復を恐れて牙を隠していたものたちは、今度はハウ家の影に怯えることになる。ハイエヴァーを出ても私はブライスの娘だ。クーズランドとハウが結びつくなら……。
「分かった。それならいいです」
「いい? 本当に分かっているのか?」
「分かっていてもいなくても、どちらでもいいことでしょう?」
「……口の減らないガキめ」
 刺々しい、荒い口調に驚いてまた彼を見つめた。まじまじとその表情を観察する私に、向けられた視線はとても冷たい。
 意外だった。私は彼を知らなかったんだと感じた。父さんの友人、アマランシンのハウ伯爵ではなく、レンドン・ハウという人間は、私に計り知れない怖い男なのかもしれない。
「いつですか?」
「ブライスには一年程度は待つと言ったが、ここを発つときそのまま連れ帰っても構わない」
「じゃあ早いほうがいい。公表はアマランシンについてからで。ハイエヴァーで祝宴をあげるとお金がもったいないから」
「……強かな娘だな。お前の結婚の話なんだぞ?」
「はい。私は、あなたに心強く思ってもらえる人間だとは思う」
 端的に言えば私はハイエヴァーの支援と引き換えにされるのだ。本望だった。むしろ彼のほうが、意に染まない結婚に嫌気がさしているように見える。ハウ伯爵は微かにため息をついて、聞き逃しそうなほど小さく「どうだろうな」と呟いた。
「いずれにせよ、傅かねばならないのは私ではなくそちらの方だ。……それだけは確かだな」
 困窮したクーズランドに彼は手を差し伸べ、私はそれに縋りついた。彼の苦悶に気づくだけの余裕は未だ無い。



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